ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 ――高望みなど、するべきではなかったのだ。

 叶わぬ恋にいつまでもしがみつき、時間を浪費するくらいなら……。

 彼を諦め苦手な笑顔を克服して、このままフロント係として働き続けるか。
 想いを成就させて玉の輿を狙うか。

 私は今すぐ究極の二択を選択しなければならなかった。

「脈がないなら、諦めた方がいいわよね……」

 問題はそう決意したあとも、苦手を克服できるまでは彼と行動をともにする必要があると言うことだけだ。

 遠くから横顔を眺めるだけでも、好きになってしまったのだから……。

 直接言葉を交わし合って密着などしたら、一溜まりもない。
 ますます彼を愛することにあっても、嫌いになどなれないだろう。

「ねぇ、マスター……。あなたは、どう思う……?」

 第三者の意見を聞きたくて店主へ問いかければ。
 マスターは肩を竦めると、困ったように眉を伏せて首を横に振る。

「それは私ではなく、ご本人に直接聞くのがよろしいかと思います」
「そんなこと、昨日も言ってなかった……?」
「待たせたな」

 待ち望んでいた声が聞こえたのは、よく回らない頭で昨夜のことを思い出そうとした時のことだった。
 総支配人は当然のように開いている隣の席に座ると、私へ声をかけて来た。
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