ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「もう。遅いですよ……」
「すまない。歓迎会がどうのと、ゴマすりされてな。あしらうのに時間がかかってしまった」
「待ちくたびれて、すっからかんです……」
「……また空にしたのか……」

 総支配人はペースが早すぎると、眉間に皺を寄せながら非難してくる。
 悪いのは私ではなく、遅れて来た彼の方だ。
 村上さんに反省して貰おうと決めた私は、唇を窄めて視線を逸らした。

「連絡先、交換してないので。一言断ってから帰るわけにも、いかないじゃないですか……」
「配慮が足りなかった。申し訳ない」
「心が籠もってません……」
「どうしたら、機嫌を直してくれるんだ」

 その答えは、私が言葉にする前から自分で導き出してほしかったけれど――。

 三十分遅れとは言え、こうして顔を出してくれただけでもありがたいと思わなければ。

 そう納得した私は渋々ガサゴソとポケットを漁り、そこからスマートフォンを取り出した。

「……交換してください。連絡先」
「もちろん」

 二つ返事で了承した彼は、私と同じように携帯電話を取り出して操作を行う。

 これほど簡単に連絡先の交換が済むとは思わなくて。
 昨日のうちから試しておけばよかったと後悔した。
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