ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 私は酔っ払っていることもあり、いつも通り幼馴染を名前で呼んでしまった。
 その結果――彼の嫉妬心を煽るなど、思いもせずに……。

「なんの話……?」
「……世間知らずな君には、プライベートでも教えなければならないことが山程あるようだ」
「そう、なの?」
「ああ。この場に居ない男の名を口に出すのは、あまり褒められたことではない」
「どうして?」
「その男性の方が、自分よりも好感度が高いと思い知らされるからだ」

 渉と慎也さんを比べるなら、彼の方が恋愛的な意味で好ましいと思っているのに……。
 不機嫌そうに歪められた眉間の皺はいつの間にか取れ、切なげに瞳が細められていることに気づく。

 まだ日本酒を一滴も、口に含んでいないはずなのに……。
 彼が私へ向ける視線が熱くて――。

「俺と話をしている間だけは、他の男のことなど考えないでほしい……」

 総支配人の瞳に射抜かれただけで全身がカッと火照り、昨日の情事を思い出してついついその気になってしまう。

 ――慎也さんの言葉に逆らうなど、あり得ない。

 私は何度も首を上下に振って頷くと、顔を赤く染めながら唇を噛み締めた。

「いい子だ」

 彼は私の慌てた素振りを優しい目つきで見守ると、首筋に噛みついてきた。
 これはいい子で遅刻してきた彼を待っていた、ご褒美かしら?
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