ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 克服できるんだと言うことを、思い知らせてやるわ!

「上手にできたら、結婚してください」
「いいだろう。その言葉、忘れるなよ」
「はい」

 私達は触れ合うだけの口づけを交わし合うと、身体を離した。
 これって本当に、飲みニケーションの一環なのだろうかと疑問に思いながら。

「総支配人。日本酒……」
「プライベートでは、名前で呼んでくれ」
「……慎也さん?」
「そうだ」

 小照りと首を傾げて名前を呼べば、彼は満足そうに優しく微笑む。
 それは総支配人が仕事中に宿泊客へ向ける笑みとよく似ているような気がしたけれど、何かが違う。

 ――ああ、そうだ。

 瞳の奥に宿る感情が、違うのね……。

 お客様へ向ける笑顔には、不快にさせないような配慮だけが全面に押し出されていた。

 簡単な話が、薄っぺらいのだ。
 奥までは入り込ませないと拒むような、光のない瞳。

 けれど、今は――。

 私が心から愛おしくて堪らないと、全身で訴えかけるような甘いオーラとともに微笑まれたら。
 ますます好きになってしまうじゃない。

 ずっと一緒に居たいと言う気持ちが、抑えられなくなってしまう。

 一度囚われてしまったら、二度と逃れられない。
 そんな予感で胸がいっぱいになりながら、私は彼が日本酒を飲み干す姿をじっと眺めた。
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