ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「帰りが遅いと、心配する人がいるのだろう」
「……でも……。やっと二人きりになれたのに……。もう、帰るんですか……?」
「かわいいことを言わないでくれ。帰してやれなくなる」

 彼は昨夜と同じように流れるような動作でマスターを呼んで会計を済ませると、覚束ない足取りの私を立ち上がらせて腰を支えてくれた。

 ――そうだ。お金。

 昨日立て替えてもらった分を返す名目で会いに来たことを、すっかり忘れていた。

 私は慌てて財布を取り出し支払おうとしたが、慎也さんに止められてしまう。

「女性の飲食代は、男性が支払うものだ」
「でも……」
「気にするな。一人で帰すのは心配だから、送って行く」
「だ、大丈夫ですよ! 一人で帰れます!」
「酔っ払っている君は、この俺が我慢できない程に魅力的だ」
「へ……?」
「見知らぬ男性に奪われるくらいならば、君を狙う強力なライバルの元へ送り届けた方がマシだからな……」

 通りすがりの見知らぬ男性が襲いかかってくるのではないかと心配するほど、魅力的な女性だと思われているなんて……。

 想像もしていなかった私がぼうっとアルコールにやられて突っ立っていれば、彼はゆっくりと退店を促した。

「香帆」

 それにしても。
 私を狙う強力なライバルって、一体誰のことかしら……?
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