ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「よそ見をするなと、伝えたはずだが」
「ご、ごめんなさい……」

 反射的に謝罪をしてしまったけれど。
 今のって、本当に私が悪いの?

 前を向いて、歩いていただけなのに……。
 なんだか納得ができないわ。

 そうしょんぼりと肩を落とせば、どこか遠い目をした彼がポツリと呟く。

「まだまだ、先は長そうだな……」

 慎也さんは今、どんなことを考えているのかしら?

 不出来な私をどうやって教育するかに頭を悩ませているのであれば、穴があったら入りたいくらいだった。

 ――私のせいで、彼にはたくさんの迷惑をかけてしまっている。

 一度の過ちから始まった恋が、終わることなく続いているだけでも。
 ありがたいと思わなければいけないのに――。

「覚悟しろ」
「それって……?」
「仕事も、プライベートも。頭の中で、俺のことしか考えれないようにしてやる」

 彼の挑発的な発言を聞いたら、その先も期待してしまう。

「慎也さん。私……」

 そんな自分の想いを止められないまま、自宅のマンションへ到着してしまった。

 ――曖昧な関係は、嫌だ。

 白黒はっきりつけておかなければ、絶対に後で後悔する。

 だから。

 さっさと好きの二文字を伝えて、楽になろうとしたのがいけなかったのだろうか。
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