ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
7・天国と地獄
「香帆ー!」
――上空から、近所迷惑としか言いようがない大声で叫ばれた。
彼もまさか上から、声が聞こえてくるとは思いもしなかったのだろう。
目を見張り、歩みを止めた。
私はその隙に視線だけを動かして建物を見上げる。
6階の角部屋に備えつけられたバルコニーには、すでに声の主は存在しない。
パジャマ姿の秋菜らしき人物が、こちらを見下ろしていることしか確認できなかった。
「香帆」
慎也さんはマンションの建物に背を向けると、私を隠すように強い力で抱きしめる。
先程聞こえてきた声に、対抗しているのかもしれない。
低く唸るように名前を呼ばれると心臓がきゅっと締めつけられて、ドキドキと鼓動が早くなる。
聞き慣れた幼馴染とは違う声を、もっと堪能したい。
慎也さんと離れ難くなってしまった私は、物欲しそうな瞳で彼を見上げた。
「……離れたく、ないです……」
「ああ。俺もだ。しかし……」
彼の視線が私から逸れて、後方を見つめる。
ドタバタと聞こえてきた足音がピタリと止んだと言うことは、急いで6階から1階までやってきたあの人がここまでやってきた証拠だろう。
「十二時の鐘が鳴ったら、魔法のドレスを纏った女性は帰路へつかなければならない」
「その例えじゃ、オレと秋菜が香帆を苛める意地悪な姉か継母ってことになるんすけど!」
不満そうに口を尖らせながら叫ぶ渉は、さすがに疲れているらしい。
前屈みになって両膝へ手を置くと、肩で息をしている。
――上空から、近所迷惑としか言いようがない大声で叫ばれた。
彼もまさか上から、声が聞こえてくるとは思いもしなかったのだろう。
目を見張り、歩みを止めた。
私はその隙に視線だけを動かして建物を見上げる。
6階の角部屋に備えつけられたバルコニーには、すでに声の主は存在しない。
パジャマ姿の秋菜らしき人物が、こちらを見下ろしていることしか確認できなかった。
「香帆」
慎也さんはマンションの建物に背を向けると、私を隠すように強い力で抱きしめる。
先程聞こえてきた声に、対抗しているのかもしれない。
低く唸るように名前を呼ばれると心臓がきゅっと締めつけられて、ドキドキと鼓動が早くなる。
聞き慣れた幼馴染とは違う声を、もっと堪能したい。
慎也さんと離れ難くなってしまった私は、物欲しそうな瞳で彼を見上げた。
「……離れたく、ないです……」
「ああ。俺もだ。しかし……」
彼の視線が私から逸れて、後方を見つめる。
ドタバタと聞こえてきた足音がピタリと止んだと言うことは、急いで6階から1階までやってきたあの人がここまでやってきた証拠だろう。
「十二時の鐘が鳴ったら、魔法のドレスを纏った女性は帰路へつかなければならない」
「その例えじゃ、オレと秋菜が香帆を苛める意地悪な姉か継母ってことになるんすけど!」
不満そうに口を尖らせながら叫ぶ渉は、さすがに疲れているらしい。
前屈みになって両膝へ手を置くと、肩で息をしている。