ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 いつも明るく元気な幼馴染が私をこうして睨みつけるとは……。
 珍しいこともあるものだ。

 これはもしかして、本気で怒ってるのかも。

 長年過ごしてきた時間の積み重ねによって状況を把握した私は、どうにか渉の怒りを鎮めようとして――。

「香帆、総支配人のこと名前で呼んでんの?」
「ち、違うの。これは……」
「マジかよ~。ありえねぇ……」

 ――失敗した。

 渉はこれ以上外にいても仕方がないと思ったのか、苛立ちを募らせながらマンションの中へ向かう。

 この状態の幼馴染と四角い箱の中で二人きりは恐ろしいものがあったけれど、突然ナイフを持って脅してくるような性格ではないことはよくわかっている。

 慎也さんが知ったら、警戒心がなさすぎると怒られてしまうかも。

 愛する彼のことを考えて口元を緩めれば、エレベーターに乗り込んだ渉からその件について指摘を受けた。

「そんなに総支配人がいいのかよ」
「そう言うわけじゃないけど……」
「あの人になんかされるんじゃないかって、慌てて階段駆け下りてきたオレになんか言うことはねぇの?」
「そんなに慌てる必要はなかったのに」
「違うだろ」
「ええっと……ありがとう……?」
「はぁ……」

 エレベーターのドアが閉まり、ゆっくりと6階を目指して四角い箱が上昇していく。
 私達の間には、不自然な隙間が開いていた。
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