ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 やっぱり、二人だけだからかしら?

 三人であれば相原兄妹を左右に従えた私が真ん中に立つため、肩が触れ合うほどの距離に立っているのだけれど……。

 いつもと雰囲気が異なる渉の態度に居心地の悪さを感じながら、早くエレベーターが目的の階へ到着しますようにと願った。

「なぁ、香帆。顔と勤務態度がよくて、輝かしい功績を持ってる男が、落ちこぼれに惚れると思うか?」
「わ、わかってるわよ。叶わない恋だって……」
「だったら!」

 気まずい沈黙を破り、何度も考えたことを指摘したのは渉だった。
 幼馴染がその先に紡ごうとした言葉は、よくわからない。

 けれど。その話をされてしまったら、こちらも打ち明けずにはいられないと思ったのだ。

 だって、約束したから。
 私達は隠し事など、する必要がないと……。

「……でも。好きになっちゃったんだから。仕方ないじゃない……」

 エレベーターが6階に到着したことを告げる、音声アナウンスが響いた。

 扉が開いても、渉はいつまでも経ってもその先へ進むことなく、エレベーターの中に立ち止まっている。

「渉?」
「なんだよ、それ……」

 今の私は絶対、頬が赤く染まっているだろう。

 じろじろと見つめられるのが恥ずかしくて。
 一足先に廊下へ出れば、普段の大きな声はどこへやら。
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