ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「渉なら、あとからくるよ。エレベーターに取り残されちゃって……」
「どんな状況……?」
「あのね。私、総支配人が好きなの」
「香帆が、総支配人を……?」
「それを伝えたら、降りるタイミングを見失ってしまったみたいなのよ。渉って、おっちょこちょいなところがあるわよね」

 クスクスと笑いながら靴を脱いでリビングへお邪魔すれば、秋菜まで目を見開いて青白い顔で絶句してしまった。

 双子じゃあるまいし。
 兄妹揃って同じような反応をするなんて、珍しいわね?

 酔っ払っている私はなぜ二人がそんな表情をしているのかわからず、笑い飛ばそうとした時だった。

 彼女は震える声で、私へ問いかける。

「嫌だわ。秋菜まで、そんな顔しなくたっていいじゃない」
「渉は、なんて……?」
「似たようなものよ。信じられないって、絶句してた」

 秋菜は瞳を潤ませ、小柄な彼女よりも背の高い私をじっと見上げた。
 様子のおかしい幼馴染をどうやって元に戻せばいいのかと困惑しながら、私は彼女と言葉を交わす。

「ねぇ、香帆……。私達、ずっと一緒にいるって……約束したよね……?」
「したけど。いつまでも一緒になんていられるわけがないじゃない。秋菜も結婚を見据えて……」
「わたしは、いいの……! 渉と香帆だけが居れば、充分だから……!」
「そう?」
「……うん。あんまり、こんなことは言いたくないけれど……」

 相手がいなければ、結婚などできっこないのだから。
 秋菜に結婚を強要するつもりはないけれど……。
< 84 / 168 >

この作品をシェア

pagetop