ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 私は慌てて時計を確認する。
 現在の時刻は、九時五分。

 山田様は、九時十五分までにモーニングコールをご所望だ。

 ――渉がコールを終えていた場合。
 私が二度目の電話をしたら、山田様の迷惑になる。

 けれど……。
 このまま誰も連絡をしなければ、クレームになるのは間違いないだろう。

 どうする?

 独断で山田様に連絡して、迷惑をかけるか。
 総支配人と渉の会話に割って入り、確認をした上で連絡するか――。

「少し離れます」
「内宮さん?」

 ――考えている時間が、もったいない。

 私は不思議そうな顔でこちらを見つめる同僚達の視線から逃れるように。
 急ぎ足でフロントを離れる。

 昨夜の一件があって渉と顔を合わせるのが気まずいなど、考えている場合ではなかった。

 自分の都合ではなく、宿泊客のことを一番に考える。

 それが、ホテル・アリアドネで働く従業員の最優先事項だ。

 ――私はずっと、自分本位に働いてきた。
 これは同僚達へこれ以上迷惑をかけないための、第一歩。

 勇気を出して管理人室に籠もっているであろう二人と顔を合わせるべく。
 ノックをしてから、勢いよく扉を開いた。

「失礼します」
「だから! 言ってるじゃないすか! 俺が声を抑えたら、逆に声が小せえって怒られんの!」
「なぜ君達には、中間が存在しないんだ……」

 総支配人は大声で騒ぐ渉と対面の席に座って面談しながら、頭を抱えている。
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