ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 下手を打てば常連客を不快にさせ、二度とうちのホテルへ宿泊してもらえないかもしれないのだ。

 そうした状況を防ぐためにも、渉の協力は必要不可欠。

 後々起こり得るであろう問題は、山田様の件をどうにかした後考えればいいだけの話だ。

 そう考えた私は総支配人をあえて無視し、幼馴染だけを見つめて告げた。

「1008号室の山田様。モーニングコールは対応済み?」
「あれ? 今日って山田様が宿泊してる日!? やべー。オレ、やらかしたわ! 昨日ってさ。オレが夜番しなきゃ行けなかった日じゃねぇか!」

 渉は引き継ぎノートすら確認せずに、総支配人と面談をしているらしい。

「1008号室の、山田様……?」

 彼も聞き覚えがある名前を耳にして訝しげな視線をこちらへ向けてくるけれど、ありふれた名字であるためそれが本当に馴染みのある常連客であるかを把握できていないようだ。

 つまり、連絡はしていないってことね。

 それさえ分かれば、管理人室に用事はない。

 私は頭を下げると、足早にその場をあとにしようとした。

「待て。上長に対して、報告もなしとは何事だ。説明してくれ。何が起きている」
「事態は刻一刻を争います。詳しいことは、渉に聞いてください。説明、お願いね」
「おー! 任された!」

 元気のいい返事を聞いた私は、フロントへとんぼ返りする。
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