ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「お疲れーっす」

 支配人との面談を終えた渉が戻って来たのは、チェックアウトの駆け込み需要で慌ただしくなる九時五十分前後だった。

 私も宿泊客の手続きをしている最中で、挨拶を返す暇すらない。

「お待ちの方! こっちでもやるんで、どーぞー!」

 高級ホテルとは思えぬ幼馴染の元気だけはいい言葉遣いと大声を耳にして、私は不快感を露わにしながらも淡々と作業を機械的にこなしていく。

 同僚が笑顔で手続きを行う左レーン、事務的に仏頂面で作業を行う中央の私、元気だけは有り余っていて暑苦しい右側の渉。

 窓口が三つある状態で誰に対応されるかを宿泊客が選べるのならば左に人気が集中しそうなこの状況を、遠くから彼が見つめていたらどう思ったのだろう。

 私と渉の評価が悪くなることはあっても、よくなることはないだろうな。

 この場にはいない総支配人のことを頭の中でぼんやりと考えながら。

 チェックアウトのピークを終えるまで、無心でカウンターの前に立ち続けた。

「内宮、相原」

 同僚達に迷惑をかけるようなミスはなかったけれど、仏頂面の私と威勢が良すぎる幼馴染の対応は、口コミなどで悪い評判を書かれてもおかしくない。
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