ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
「これからずっと、東京駅前店の勤務かい?」
「私はそのつもりでいますが……」
「えっ。総支配人って、オレらの問題が解決するまでの繋ぎじゃないんすか!?」
「相原くん! 声が大きい!」

 私は慌てて、渉の裾を引っ張り静止した。

 従業員同士で話をしているならともかく、山田様の前だ。
 総支配人との会話に割って入るべきではない。

 それすらもわからないのかと頭を抱えていれば、男性客は総支配人の肩を叩いた。

「そうだねぇ。毎年、君たち三人が揃って私を出迎えてくれることを、期待しているよ」
「承りました」

 驚きで目を見開いた私は、思わず総支配人を凝視してしまう。

 山田様との約束を守るために、職務放棄をするつもりなのかと疑ったからだ。

 彼の行動は、矛盾している。

 慎也さんがここに来たのは、あくまで出向扱い。

 私がお客様の前でも自然な笑顔を浮かべられるようになり、渉の声が他の従業員と同じくらいの声音になれば、彼は本社に戻らなくてはならないはずだ。

 このまま総支配人が、ホテル・アリアドネの従業員として働き続けることなどあり得ないのに……。

 まさか、問題が解決したあと。
 山田様が宿泊する日だけはここへ出向してきて、毎日働いていますと嘘をつもりなのだろうか……?
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