ホテル王と一夜の過ち 社内恋愛禁止なのに、御曹司の溺愛が止まりません
 彼の性格上、それだけは絶対にあり得ないと思うけれど……。

 私は引き攣った笑みを浮かべたくなる気持ちをぐっと堪え、淡々とチェックアウト手続きを終えた。

「仕事の邪魔をして、悪かったね」
「いいえ。またのお越しを、お待ちしております」
「では、また来年。よろしく頼むよ」

 私達は笑顔の山田様が見えなくなるまで、頭を下げて見送った。

「話が途中になってしまったな」
「うげっ。オレ、トイレ行ってきまーす」
「逃げるなよ」
「ういーっす」

 どうやら渉は、総支配人との話し合いを切り上げて急いでフロントへ戻って来たらしい。

 あれは多分、ほとぼりが冷めるまで仕事をサボるつもりでしょうね。
 私は幼馴染の行動原理を知らない総支配人へ、念の為教えておこうと決めて囁いた。

「追いかけた方がいいですよ」
「必要ない」
「このままだと、あのまましばらく帰ってきません」
「オレは内宮を辞めさせるつもりはないが、相原が自主退職を願い出る分には構わない」
「なぜですか」
「彼は俺にとって、恋のライバルであるからだ」

 公私混同はしないはずじゃなかったのかと聞きたいけれど。
 彼が私を熱っぽい瞳で見下していることに気づいた。

 これはどう見ても、プライベートスイッチが入っている。

 やっと、勤務態度を改善する気になったのに……。
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