10年後も、君がいた軌跡は僕が憶えているから。
新入生によって行われる入学式が終わり、わたしはお気に入りの旧校舎へと足を運ぶ。
桜並木が良く見え、風に吹かれている姿はとても絵になる。
風に吹かれ名がら桜の花びらが舞う。手を差し出すと風に乗って1枚の花弁が乗ってきた。
わたしにとって、大切な場所。でも、もうすぐここは取り壊されてしまうという残酷な運命にあった。
風もおさまり、新校舎へと荷物を取りに足を踏み出した、
そんな時。
「誰?」
「え、」
普段誰も来ない旧校舎だから、人が来ることに驚いた。
それは、向こうも同じだったらしい。
「あ、わたしは唯菜。櫻井唯菜」
「ふぅん。俺は、守山雅人」
「よろしく」
「うん」
何となく、気まずい雰囲気が辺りを漂う。
「ねぇ、なんで雅人くんはここに?」
勇気を振り絞り出た質問に雅人くんは快く答えてくれた。
「桜がきれいだから。唯菜は?」
「わたし?わたしはね、雅人くんと同じ理由だよ」
さっき会ったばかりなのに、自然と会話ができた。
雅人くんは、ぶっきらぼうでそっけないけれど優しいひとなんだなぁと思った。
それに、初めて会ったはずなのにどこか懐かしい。
「唯菜。何組?俺2-5」
「わたしは、2ー6だよ。隣だね」
「そうか、唯菜俺は毎日昼休みにここにきている。
これから、ここをたまり場みたいに話すときはここに集合しよう。どう?」
雅人くんの提案は、とても嬉しくなるものだった。
「いいよ!あ、でも万が一を備えて連絡先交換しない?」
「分かった」
そう言いあい、双方ともスマホを取り出しアカウント登録をしあった。
「猫しゃんだぁ!」
「ブッ」
猫が大好きなわたし。雅人くんの飼い猫だという猫でわたしの気分はグンと上がった。
「これは、女の子の横顔か?」
「そうだよ~。わたしが描いたの!」
雅人くんは、すごいとボソッと言ってくれた。
わたしにとって、絵は唯一誇れる特技でもあった。
美術の授業で郷土を描くものだっだとき県のコンクールまで生き見事特別賞をもらった。
「実は、お母さんが画家さんで、美坂碧って知ってる?」
「知ってる。有名だ」
そういえば、確かにお母さんは企画展みたいなのもやっているらしく来場者数は驚異の数だったんだとか。聞いた話だけど。
「だから、唯菜は絵がうまいのか?」
「うーん、そうだね。多分。うち、家がとても特殊なんだよね」
初めて会った相手なのにわたしは、ペラペラと喋ってしまった。
「ごめん、ペラペラ喋って」
「いや、別に。楽しかった。俺も、ここまで喋ったことなんてなかったから」
「そうなんだ」
「あぁ。あ、いっけねもう下校時刻だ。ほら、バック取りに行ったらが帰りも話聞いてやるから」
「ほんと!?」
「あぁ、帰ったりしねぇから」
「分かった!」
そう言い残してわたしは猛ダッシュで荷物を持って旧校舎までに、向かった。
「お前、はやっ!」
雅人くんは、わたしの速さに驚いていた。
だって、全力疾走したんだもん。
「だっ、だって!このまま消えたら嫌だもん!」
プクッーと頬を膨らませると笑っていた。
「じゃあ、帰るか」
「うん」
「唯菜は、家どこ?」
「杉浦だよ」
「俺は、緑町」
緑町は、杉浦の反対方向。県を跨いだ先に位置する。
「じゃあ、反対だ」
駅に着くと、それぞれ最寄り駅の電車へ乗った。
また明日と言ってわたし達は帰ってった。
夜、わたしは雅人くんのことを考えながら、眠りについた。君と出逢ってから2日目の朝を迎えた。
「おはよう…」
リビングに行くと、お母さんとお父さん、お兄ちゃんがいた。
3人揃っているのは、珍しかった。
「どう、したの?」
ハッとしたように3人はおはようと言った。
何かが嫌な予感がする。
あってはならなそうな事がこの先起こりそうだった。
3人は、いつもと同じように過ごしていた。
そしてわたしもいつもと同じようにパンを咀嚼していた。
でも、なんかいつもより味気ない。
「お母さん…」
「唯菜…?どうしたの?」
「あ、いや…。何でもない…」
「そう…」
どうかしたの?って言えなかった。
でも、お母さんが気にする素振りは見せなかった。
お母さん、やつれている。
顔に元気がない。
「唯香のこと?」
「…」
お母さんは、黙っていたが少し顔が引き攣った。
唯香は、わたしの妹。
わたしは、病気を患っている。
わたしの妹もわたしも同じ病気を患っている。発症したの
は、妹が先だった。
透季病。
透季病は、発症した年から1年とその発症した季節に必ず死ぬとされている。
女の人がよくなる病。思春期にはもっと患者は増えるらしい。
治療法は無いらしい。
また、透季病は死期が近づくと身体が透けてくるらしい。妹が発症したのは、1年前の春ということはもう時間がないということ?
わたしは、1年前の夏に発症した。
「行ってきます」
急いで、カバンを手を持ち病院へ向かった。
「唯香!」
病室のドアを開けると、唯香はいた。でも、身体の半分透けていた。もう死期が近づいている証拠だ。
唯香の透明化した手を握りしめる。
透明化していても触れることはできる。それだけでも、今はありがたかった。
「っ!」
ドクンと心臓が脈動した。透季病は、心臓にも害を及ぼす。
はァ、はァ。
息苦しさと胸痛を覚えた。
霞む視界から必死にナースコールを押した瞬間わたしは意識を失った。
目が覚めると、酸素マスクを付けベッドの上にいた。
倒れたのは、朝。なのに、昼になっていた。
近くには、お母さんが手を握りしめ目尻には涙の跡が残っていた。
透季病は、遺伝子変異にも関係があり原因は母親の遺伝子ということもあったためお母さんはずっと自分を責めていた。
今だって、仕事に手がつかないみたい。
雅人くんのことを思い出して、昨日繋いだばかりのメッセージに『今日学校にいない』ことを連絡すると秒速でOKの猫スタンプがきた。
スマホを置くのと同時にお母さんが目を覚ました。
「唯菜?大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「良かった〜」
お母さんは、安堵の息をつき担当の先生を呼びに行った。
「唯菜さん、大丈夫?」
付き添いの看護師さんは、酸素マスクを外してくれた。
「大丈夫です」
「検査を今日してもらって身体の中はもう透明化しつつある。あとは、それが皮膚に現れるか」
透季病は、個人差はあるらしいが透明化が薄い人もいるらしい。でも、わたしと唯香は重い方に部類されるらしい。
それから、わたしは先生の話をじっくりと聞いた。
対処でしかないが透明化を少し遅らせる薬を渡された。
意味なんて、ないのに。
その薬をもらい、わたしは退院した。
翌朝には、薬を飲み学校に向かうと途中雅人くんに会った。
よぉと手を挙げて挨拶してくれておはようと返した。
「昨日は平気だったか?」
「うん!ちょっと体調悪かったけど元気になったから!」
雅人くん、ごめんね。わたしは心のなかで謝る。
半分、嘘をつきました。
教室に着くと、ガヤガヤ音が響いた。
先生が来ていないからって、ゲームをしている子もいる。
これじゃあダメじゃん。
「おはよ?唯菜!」
ポンと肩に手を置き挨拶してくれたのは、中学校時代からの友達三品瑠衣菜。
「瑠衣菜、おはよう」
「瑠衣菜〜、唯菜〜!待ってよ〜!」
2人の名前を呼んだのは、久保田美紀。
天真爛漫でとても社交的で美人だけどお調子者が玉に瑕。
「先生。遅いね」
時間を確認するといつも来る8時15分はゆうに過ぎていた。
「ね」
「どうしたんだろー?」
そう言い合っていると、学級担任の先生が入り言う。
「今日は、自習!」
自習?6時間目まで?
マジか。
勉強が好きな瑠衣菜は、1人でガッツポーズしていた。
どちらかというと勉強は好きな方に部類されるわたしですら、今日丸一日自習はつらすぎる。
美紀は、落胆していた。
この幸せが微笑ましい。
わたしが居なくなっても、守りたい日常の1つがそこにあった。
「唯菜」
後ろから声がして振り向くとお兄ちゃんこと櫻井誠がいた。
何だろうと思って近づくとポンと手に置かれたのは、薬。
「お前、薬忘れてた」
その言葉に、怖くなった。
「お母さん、怒ってた…?」
「そりゃもう、カンカンに」
「やっちゃったよ〜」
「大丈夫だよ、今回は許すけど次は無いって」
そう言ってお兄ちゃんは、ケタケタ笑った。
わたしたちは、唯香がいないこの場所でも息をしている。
唯香は、今にも死にそうなのに。
そして、わたしも今年の夏に死ぬ。
お兄ちゃんとお母さん、お父さん。
そして、雅人くん。
わたしは、昨日あったばかりの彼をものすごく大事にしていた。
昼休みを迎えると、旧校舎へと向かった。
もう、雅人くんはいた。
「雅人くん…」
「唯菜」
少しだけ黙った。
「体調は、お変わりないか…?」
「うん、大丈夫だよ」
「そうか…」
そこから、わたしたちはお弁当を食べ始めた。
わたしは、タコさんウインナーとコロッケとか沢山入っていた。
雅人くんのお弁当を覗き込むと、いわゆる"キャラ弁"だった。
思わず吹き出してしまうと雅人くんは不機嫌そうに言う。
「何だよ」って。
「可愛いやつだね」
口元を抑えてもニヤついてしまう。
「これ、妹のだ…」
キャラ弁は、妹さんのだった。
「え、雅人くんって妹いるんだ…」
「いる。うるさいやつ。将来が不安でしかない」
「過保護だね」
「ち、違うぞ!」
わたしの言葉に顔を真っ赤にして言った。
「唯菜は?」
「居るよ」
「そっか」
わたしが聞いてほしくない雰囲気を出していたのか雅人くんはあまり深く追求をしてこなかった。
むしろ、ありがたかった。
唯香の事、伝えられるか分からかったから。
「雅人くん」
「どうした?」
「わたし、辛いよ…」
会って3日なのに、わたしにとって彼は心の拠り所。
等々、わたしは弱音を吐いた。
唯香のことを。
見ているこっちが辛い。
「雅人くん、妹ー唯香はねもう治らない病気で…。もう死んじゃうって考えると辛くて…。どうしよう?」
わたしは、唯香には訪れない大人の未来を想像した。
唯香は、わたしと2歳差。
「お姉ちゃん!面接に受かった!」
「おめでとう!」
吉報を知り家族総出でお祝いのために高級料理店へと足を運ぶ。
「うーん、おいひい!」
食べ物を口に入れながら咀嚼している様子にお兄ちゃんが注意をする。
「もう、みんな大人だな!」
お父さんが言い、豪快に笑う。
「お兄ちゃん!今度、奢って!」
わたしと妹のお願いに断固拒否するお兄ちゃんに抗議をして、お兄ちゃんは仕方ないなぁと言った。
そして、ハイタッチをする。
3年後、唯香は結婚する。
素敵な男性と育む生活。
そんな未来が訪れたかもしれなかった。
でも、たった1つの病のせいでそれは粉々に砕け散る。
でも、想像しなきゃわたしの心は持たない。
もう、唯香が居なくなること。
そして、いずれわたしも。
一筋の涙が頬を伝っていく感触がした。
その姿を見た雅人くんが驚いた顔をした。
フラフラと雅人くんに寄りかかった。
驚く雅人くんに、「少しだけ居させて」とか細い声で言うと何も言わずにそのままの体勢にしてくれた。
落ち着くと、わたしは一つのことを口走っていた。
「わたしと擬似恋人やろうよー」と。
雅人くんは、本当に驚いた顔をした。
嘘でも良いから最後の年恋をしたかった。
別に、彼じゃなくても良かったのにわたしは彼を選択した。
謝ろうとすると、雅人くんは何も言わずポンポンと頭を撫で良いよと耳元で言った。
今度は、わたしが驚く番だった。
雅人くんの顔は真剣だった。
擬似恋人なんて、断られると思ったのに。彼は、お人好しなんだな。
彼に、感謝の言葉を言ってわたしは旧校舎から席を立った。
「唯菜…?目、真っ赤だよ?」
教室に戻ると、瑠衣菜が早速心配してきた。
「充血してるね」
美紀もだ。
2人には、とても怖くて病気の事も家族の事も話せない。
「悩みあったら聞くよ?」
2人の優しさに全てを話したくなる衝動にかられた。
神様と心のなかでつぶやく。
どうして、わたしと唯香なんですか?
病気に何かならないでずっと幸せになりたかったです。
どうしてですか?
雅人くんと擬似恋人関係をスタートしました。
最後の年恋をしたかった願望は、これで事足りるのでしょうか?
残されるお母さんとお父さんにお兄ちゃん。
それに、雅人くんに瑠衣菜と美紀。
6人の幸せを守ってあげてください。
何なら、わたしを命を唯香にあげてください。
いくら願っても神様の声は聞こえない。
辛くて、またわたしは声を少しあげて泣いた。
もうすぐ薬を飲む時間だけど、涙が止まらなかった。
カラカラになるまで泣いて瑠衣菜と美紀はそっと傍にいてくれた。
泣き終わった後は、目が腫れぼったかった。
トイレに駆け込み、鏡を見ると腫れていた。
自習の時間にタオルを濡らし、目に当てていたけれど効果はあまり期待されなかった。
全授業が終わり帰る支度をして、席を立つとドアの向こうに雅人くんがいた。
「一緒に帰ろ?」
そう、誘ってきた。
「うん、帰ろう」
駅に向かうまでの間、わたしたちは一言も喋らなかった。
わたしは、喋る気力も無くなっていた。
雅人くんも何にも言わなかった。ただ、寄り添ってくれた。
そのありがたさをわたしは感じた。
何も喋らないわたしを心配したのか、家まで雅人くんは送り届けてくれた。
また明日だけは言えた。
向こうも言ってくれた。
ー雅人Sideー
俺が初めて君に会ったのは、桜舞う校舎だった。
その子の名前は、櫻井唯菜。
話してみると、美坂碧という有名画家を親に持つ子だった。
唯菜は、知られたくない秘密を抱えている子だと直感で思った。
俺は、家が少し異常だった。
資産家の両親を持つ子供。
父方の祖母と祖父は、教育熱心で小さい頃から俺は勉強三昧だった。親もろくに帰ってこない人たちだった。
母方の祖父母は、自由奔放的。やりたい事は、どんどんやりなさいとよく言う人たち。
お互いの考えが違うからよくケンカをしていた。
嫌だなぁと思っているときに出会ったのが唯菜だった。
出会って3日目。
唯菜は、妹がいることを打ち明けた。でも、その妹は不治の病でもうすぐ死んでしまうことを告げた。
その姿を見て、俺は胸を打たれた。
俺も、妹がいた。真奈という名前。
真奈がもし不治の病だったら…、と想像してみると残酷だった。
しかも、もうすぐ死ぬと分かっていると余計に怖かった。
それでも、気丈に振る舞う唯菜の姿に関心した。
唯菜は、強い女の子。
そんな時、彼女が「擬似恋人」の話を持ちかけた。
俺は、自分でもびっくりするくらいに了承していた。
唯菜が驚いた顔をしていたけれど、俺の方が驚いた。
出会って3日目。
櫻井唯菜と守山雅人の擬似恋人関係による交際は、幕を切ったー。
桜並木が良く見え、風に吹かれている姿はとても絵になる。
風に吹かれ名がら桜の花びらが舞う。手を差し出すと風に乗って1枚の花弁が乗ってきた。
わたしにとって、大切な場所。でも、もうすぐここは取り壊されてしまうという残酷な運命にあった。
風もおさまり、新校舎へと荷物を取りに足を踏み出した、
そんな時。
「誰?」
「え、」
普段誰も来ない旧校舎だから、人が来ることに驚いた。
それは、向こうも同じだったらしい。
「あ、わたしは唯菜。櫻井唯菜」
「ふぅん。俺は、守山雅人」
「よろしく」
「うん」
何となく、気まずい雰囲気が辺りを漂う。
「ねぇ、なんで雅人くんはここに?」
勇気を振り絞り出た質問に雅人くんは快く答えてくれた。
「桜がきれいだから。唯菜は?」
「わたし?わたしはね、雅人くんと同じ理由だよ」
さっき会ったばかりなのに、自然と会話ができた。
雅人くんは、ぶっきらぼうでそっけないけれど優しいひとなんだなぁと思った。
それに、初めて会ったはずなのにどこか懐かしい。
「唯菜。何組?俺2-5」
「わたしは、2ー6だよ。隣だね」
「そうか、唯菜俺は毎日昼休みにここにきている。
これから、ここをたまり場みたいに話すときはここに集合しよう。どう?」
雅人くんの提案は、とても嬉しくなるものだった。
「いいよ!あ、でも万が一を備えて連絡先交換しない?」
「分かった」
そう言いあい、双方ともスマホを取り出しアカウント登録をしあった。
「猫しゃんだぁ!」
「ブッ」
猫が大好きなわたし。雅人くんの飼い猫だという猫でわたしの気分はグンと上がった。
「これは、女の子の横顔か?」
「そうだよ~。わたしが描いたの!」
雅人くんは、すごいとボソッと言ってくれた。
わたしにとって、絵は唯一誇れる特技でもあった。
美術の授業で郷土を描くものだっだとき県のコンクールまで生き見事特別賞をもらった。
「実は、お母さんが画家さんで、美坂碧って知ってる?」
「知ってる。有名だ」
そういえば、確かにお母さんは企画展みたいなのもやっているらしく来場者数は驚異の数だったんだとか。聞いた話だけど。
「だから、唯菜は絵がうまいのか?」
「うーん、そうだね。多分。うち、家がとても特殊なんだよね」
初めて会った相手なのにわたしは、ペラペラと喋ってしまった。
「ごめん、ペラペラ喋って」
「いや、別に。楽しかった。俺も、ここまで喋ったことなんてなかったから」
「そうなんだ」
「あぁ。あ、いっけねもう下校時刻だ。ほら、バック取りに行ったらが帰りも話聞いてやるから」
「ほんと!?」
「あぁ、帰ったりしねぇから」
「分かった!」
そう言い残してわたしは猛ダッシュで荷物を持って旧校舎までに、向かった。
「お前、はやっ!」
雅人くんは、わたしの速さに驚いていた。
だって、全力疾走したんだもん。
「だっ、だって!このまま消えたら嫌だもん!」
プクッーと頬を膨らませると笑っていた。
「じゃあ、帰るか」
「うん」
「唯菜は、家どこ?」
「杉浦だよ」
「俺は、緑町」
緑町は、杉浦の反対方向。県を跨いだ先に位置する。
「じゃあ、反対だ」
駅に着くと、それぞれ最寄り駅の電車へ乗った。
また明日と言ってわたし達は帰ってった。
夜、わたしは雅人くんのことを考えながら、眠りについた。君と出逢ってから2日目の朝を迎えた。
「おはよう…」
リビングに行くと、お母さんとお父さん、お兄ちゃんがいた。
3人揃っているのは、珍しかった。
「どう、したの?」
ハッとしたように3人はおはようと言った。
何かが嫌な予感がする。
あってはならなそうな事がこの先起こりそうだった。
3人は、いつもと同じように過ごしていた。
そしてわたしもいつもと同じようにパンを咀嚼していた。
でも、なんかいつもより味気ない。
「お母さん…」
「唯菜…?どうしたの?」
「あ、いや…。何でもない…」
「そう…」
どうかしたの?って言えなかった。
でも、お母さんが気にする素振りは見せなかった。
お母さん、やつれている。
顔に元気がない。
「唯香のこと?」
「…」
お母さんは、黙っていたが少し顔が引き攣った。
唯香は、わたしの妹。
わたしは、病気を患っている。
わたしの妹もわたしも同じ病気を患っている。発症したの
は、妹が先だった。
透季病。
透季病は、発症した年から1年とその発症した季節に必ず死ぬとされている。
女の人がよくなる病。思春期にはもっと患者は増えるらしい。
治療法は無いらしい。
また、透季病は死期が近づくと身体が透けてくるらしい。妹が発症したのは、1年前の春ということはもう時間がないということ?
わたしは、1年前の夏に発症した。
「行ってきます」
急いで、カバンを手を持ち病院へ向かった。
「唯香!」
病室のドアを開けると、唯香はいた。でも、身体の半分透けていた。もう死期が近づいている証拠だ。
唯香の透明化した手を握りしめる。
透明化していても触れることはできる。それだけでも、今はありがたかった。
「っ!」
ドクンと心臓が脈動した。透季病は、心臓にも害を及ぼす。
はァ、はァ。
息苦しさと胸痛を覚えた。
霞む視界から必死にナースコールを押した瞬間わたしは意識を失った。
目が覚めると、酸素マスクを付けベッドの上にいた。
倒れたのは、朝。なのに、昼になっていた。
近くには、お母さんが手を握りしめ目尻には涙の跡が残っていた。
透季病は、遺伝子変異にも関係があり原因は母親の遺伝子ということもあったためお母さんはずっと自分を責めていた。
今だって、仕事に手がつかないみたい。
雅人くんのことを思い出して、昨日繋いだばかりのメッセージに『今日学校にいない』ことを連絡すると秒速でOKの猫スタンプがきた。
スマホを置くのと同時にお母さんが目を覚ました。
「唯菜?大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「良かった〜」
お母さんは、安堵の息をつき担当の先生を呼びに行った。
「唯菜さん、大丈夫?」
付き添いの看護師さんは、酸素マスクを外してくれた。
「大丈夫です」
「検査を今日してもらって身体の中はもう透明化しつつある。あとは、それが皮膚に現れるか」
透季病は、個人差はあるらしいが透明化が薄い人もいるらしい。でも、わたしと唯香は重い方に部類されるらしい。
それから、わたしは先生の話をじっくりと聞いた。
対処でしかないが透明化を少し遅らせる薬を渡された。
意味なんて、ないのに。
その薬をもらい、わたしは退院した。
翌朝には、薬を飲み学校に向かうと途中雅人くんに会った。
よぉと手を挙げて挨拶してくれておはようと返した。
「昨日は平気だったか?」
「うん!ちょっと体調悪かったけど元気になったから!」
雅人くん、ごめんね。わたしは心のなかで謝る。
半分、嘘をつきました。
教室に着くと、ガヤガヤ音が響いた。
先生が来ていないからって、ゲームをしている子もいる。
これじゃあダメじゃん。
「おはよ?唯菜!」
ポンと肩に手を置き挨拶してくれたのは、中学校時代からの友達三品瑠衣菜。
「瑠衣菜、おはよう」
「瑠衣菜〜、唯菜〜!待ってよ〜!」
2人の名前を呼んだのは、久保田美紀。
天真爛漫でとても社交的で美人だけどお調子者が玉に瑕。
「先生。遅いね」
時間を確認するといつも来る8時15分はゆうに過ぎていた。
「ね」
「どうしたんだろー?」
そう言い合っていると、学級担任の先生が入り言う。
「今日は、自習!」
自習?6時間目まで?
マジか。
勉強が好きな瑠衣菜は、1人でガッツポーズしていた。
どちらかというと勉強は好きな方に部類されるわたしですら、今日丸一日自習はつらすぎる。
美紀は、落胆していた。
この幸せが微笑ましい。
わたしが居なくなっても、守りたい日常の1つがそこにあった。
「唯菜」
後ろから声がして振り向くとお兄ちゃんこと櫻井誠がいた。
何だろうと思って近づくとポンと手に置かれたのは、薬。
「お前、薬忘れてた」
その言葉に、怖くなった。
「お母さん、怒ってた…?」
「そりゃもう、カンカンに」
「やっちゃったよ〜」
「大丈夫だよ、今回は許すけど次は無いって」
そう言ってお兄ちゃんは、ケタケタ笑った。
わたしたちは、唯香がいないこの場所でも息をしている。
唯香は、今にも死にそうなのに。
そして、わたしも今年の夏に死ぬ。
お兄ちゃんとお母さん、お父さん。
そして、雅人くん。
わたしは、昨日あったばかりの彼をものすごく大事にしていた。
昼休みを迎えると、旧校舎へと向かった。
もう、雅人くんはいた。
「雅人くん…」
「唯菜」
少しだけ黙った。
「体調は、お変わりないか…?」
「うん、大丈夫だよ」
「そうか…」
そこから、わたしたちはお弁当を食べ始めた。
わたしは、タコさんウインナーとコロッケとか沢山入っていた。
雅人くんのお弁当を覗き込むと、いわゆる"キャラ弁"だった。
思わず吹き出してしまうと雅人くんは不機嫌そうに言う。
「何だよ」って。
「可愛いやつだね」
口元を抑えてもニヤついてしまう。
「これ、妹のだ…」
キャラ弁は、妹さんのだった。
「え、雅人くんって妹いるんだ…」
「いる。うるさいやつ。将来が不安でしかない」
「過保護だね」
「ち、違うぞ!」
わたしの言葉に顔を真っ赤にして言った。
「唯菜は?」
「居るよ」
「そっか」
わたしが聞いてほしくない雰囲気を出していたのか雅人くんはあまり深く追求をしてこなかった。
むしろ、ありがたかった。
唯香の事、伝えられるか分からかったから。
「雅人くん」
「どうした?」
「わたし、辛いよ…」
会って3日なのに、わたしにとって彼は心の拠り所。
等々、わたしは弱音を吐いた。
唯香のことを。
見ているこっちが辛い。
「雅人くん、妹ー唯香はねもう治らない病気で…。もう死んじゃうって考えると辛くて…。どうしよう?」
わたしは、唯香には訪れない大人の未来を想像した。
唯香は、わたしと2歳差。
「お姉ちゃん!面接に受かった!」
「おめでとう!」
吉報を知り家族総出でお祝いのために高級料理店へと足を運ぶ。
「うーん、おいひい!」
食べ物を口に入れながら咀嚼している様子にお兄ちゃんが注意をする。
「もう、みんな大人だな!」
お父さんが言い、豪快に笑う。
「お兄ちゃん!今度、奢って!」
わたしと妹のお願いに断固拒否するお兄ちゃんに抗議をして、お兄ちゃんは仕方ないなぁと言った。
そして、ハイタッチをする。
3年後、唯香は結婚する。
素敵な男性と育む生活。
そんな未来が訪れたかもしれなかった。
でも、たった1つの病のせいでそれは粉々に砕け散る。
でも、想像しなきゃわたしの心は持たない。
もう、唯香が居なくなること。
そして、いずれわたしも。
一筋の涙が頬を伝っていく感触がした。
その姿を見た雅人くんが驚いた顔をした。
フラフラと雅人くんに寄りかかった。
驚く雅人くんに、「少しだけ居させて」とか細い声で言うと何も言わずにそのままの体勢にしてくれた。
落ち着くと、わたしは一つのことを口走っていた。
「わたしと擬似恋人やろうよー」と。
雅人くんは、本当に驚いた顔をした。
嘘でも良いから最後の年恋をしたかった。
別に、彼じゃなくても良かったのにわたしは彼を選択した。
謝ろうとすると、雅人くんは何も言わずポンポンと頭を撫で良いよと耳元で言った。
今度は、わたしが驚く番だった。
雅人くんの顔は真剣だった。
擬似恋人なんて、断られると思ったのに。彼は、お人好しなんだな。
彼に、感謝の言葉を言ってわたしは旧校舎から席を立った。
「唯菜…?目、真っ赤だよ?」
教室に戻ると、瑠衣菜が早速心配してきた。
「充血してるね」
美紀もだ。
2人には、とても怖くて病気の事も家族の事も話せない。
「悩みあったら聞くよ?」
2人の優しさに全てを話したくなる衝動にかられた。
神様と心のなかでつぶやく。
どうして、わたしと唯香なんですか?
病気に何かならないでずっと幸せになりたかったです。
どうしてですか?
雅人くんと擬似恋人関係をスタートしました。
最後の年恋をしたかった願望は、これで事足りるのでしょうか?
残されるお母さんとお父さんにお兄ちゃん。
それに、雅人くんに瑠衣菜と美紀。
6人の幸せを守ってあげてください。
何なら、わたしを命を唯香にあげてください。
いくら願っても神様の声は聞こえない。
辛くて、またわたしは声を少しあげて泣いた。
もうすぐ薬を飲む時間だけど、涙が止まらなかった。
カラカラになるまで泣いて瑠衣菜と美紀はそっと傍にいてくれた。
泣き終わった後は、目が腫れぼったかった。
トイレに駆け込み、鏡を見ると腫れていた。
自習の時間にタオルを濡らし、目に当てていたけれど効果はあまり期待されなかった。
全授業が終わり帰る支度をして、席を立つとドアの向こうに雅人くんがいた。
「一緒に帰ろ?」
そう、誘ってきた。
「うん、帰ろう」
駅に向かうまでの間、わたしたちは一言も喋らなかった。
わたしは、喋る気力も無くなっていた。
雅人くんも何にも言わなかった。ただ、寄り添ってくれた。
そのありがたさをわたしは感じた。
何も喋らないわたしを心配したのか、家まで雅人くんは送り届けてくれた。
また明日だけは言えた。
向こうも言ってくれた。
ー雅人Sideー
俺が初めて君に会ったのは、桜舞う校舎だった。
その子の名前は、櫻井唯菜。
話してみると、美坂碧という有名画家を親に持つ子だった。
唯菜は、知られたくない秘密を抱えている子だと直感で思った。
俺は、家が少し異常だった。
資産家の両親を持つ子供。
父方の祖母と祖父は、教育熱心で小さい頃から俺は勉強三昧だった。親もろくに帰ってこない人たちだった。
母方の祖父母は、自由奔放的。やりたい事は、どんどんやりなさいとよく言う人たち。
お互いの考えが違うからよくケンカをしていた。
嫌だなぁと思っているときに出会ったのが唯菜だった。
出会って3日目。
唯菜は、妹がいることを打ち明けた。でも、その妹は不治の病でもうすぐ死んでしまうことを告げた。
その姿を見て、俺は胸を打たれた。
俺も、妹がいた。真奈という名前。
真奈がもし不治の病だったら…、と想像してみると残酷だった。
しかも、もうすぐ死ぬと分かっていると余計に怖かった。
それでも、気丈に振る舞う唯菜の姿に関心した。
唯菜は、強い女の子。
そんな時、彼女が「擬似恋人」の話を持ちかけた。
俺は、自分でもびっくりするくらいに了承していた。
唯菜が驚いた顔をしていたけれど、俺の方が驚いた。
出会って3日目。
櫻井唯菜と守山雅人の擬似恋人関係による交際は、幕を切ったー。