きみへ贈る物語。〜何年、時が経っても君を忘れないから〜
翌日、わたしは雅人くんとデートに向かった。
水族館からは電車で10分ほど。雅人くんは、わたしの家まで迎えに来てくれた。
驚く家族に「擬似」というのではなく正式な恋人と説明すると驚かれながらもお祝いの言葉を言ってくれた。
雅人くんは、嬉しそうにお礼を言っていた。
電車に揺られながら着いた先はもう目の前にあった。
薬を持って準備万端にしてきた。
デート中も唯香の事が心配で片時もスマホを手放さなかった。
雅人くんも気が付いていたけれど、何も言わないでおいてくれた。
「唯菜、カワウソ見れるらしいよ」
「行きたい!」
カワウソは、コツメカワウソだった。
愛らしい目がとても堪らなかった。
そう見ている今もふと考えてしまう。
この子達も、一生懸命生きているんだな。
わたしみたいにもう治らない人でも希望はきっと捨てていない。
わたしも頑張らなくちゃ!
自分を奮い立たせて、ペンギンを観に行ったりイルカショーをみた。
水族館を満喫したわたしたちは、館内にあるレストランで昼食を取ることにした。
わたしは、ご飯ではなくスカイブルー色の飲み物を頼んだ。
雅人くんは、料理と飲み物を美味しそうに食していた。
わたしが薄く微笑んでいると向こうも返してくれた。
今、わたしたちは擬似恋人として来ているけど世間的には普通の恋人に見えるんだろうなぁと考えた。
ご飯を食べ終わると、わたしはトイレに行って薬を飲むとお土産店に行った。




「可愛いっ!」
手にとって可愛いと言ったのは、イルカが描かれたキーホルダー。
値段は、お高めだったけど今まで貯金をしていたから手持ちに余裕がある。
自分の分は、自分で買わないと!と思いレジを待つ列に参列しようとしていると横からニュッと手が出てきて驚いているとキーホルダーは雅人くんの手元にあった。
驚いていると、「買ってあげる」と答えた。
雅人くんは、すぐに列に並んだ。
わたしが、呆然としている間に会計が終わったのかラッピングされ手渡された。
「あ、ありがと」
「どういたしまして」
やっぱり、雅人くんは優しいな。
こんな人、わたしは気付かなかった。
わたしは、少し後悔した。
もしかしたら、彼を愛してくれる人だっている。それに、彼も愛する人が居るかもしれないのに。訪れるかもしれない未来をわたしはこの手で奪ってしまった。
ごめんと小さく呟いた。
最近は、謝ってばっかりだなぁ。
雅人くんは、心を解放していないよね。
思いっきり、解放して良いのに。
何でだろうね。
雅人くんと横並びで並び、水族館を出た。
そういえば、雅人くんのお家どんなのだろう?
気になって、聞いてみた。
「ムカつくよ」
こっそりと教えてくれた。
「どうして?」
と尋ねるとうち来る?と聞いてきた。
わたしが了承すると少し悲しそうな表情をした。
その顔がいつまでも心の中で残っていた。






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