いっくんのお気に入り♡
指を絡めて手を繋ぎ、前を向いたまま壱茶が声を出す。

「せいちゃん」

「ん?」

「フミヤって人…」

「うん」

「元彼?」

「え?
ち、違うよ?」

「ほんとに?」

「うん。
仲良くはさせてもらってたけど、そうゆう関係にはなったことないよ?
私も、アツコちゃんも恋人がいたし…」

「好きになったことないの?」
そこで、向き直ってきた。

「え……」

「あるんだ…」

わかりやすく、顔に出てしまった聖愛。
壱茶の顔が、切なく歪んだ。

「あ…彼と別れた時にちょっと…
で、でも!私なんか、好きになってもらえるわけ……」

「せいちゃん!!」

「は、はい!」

「いい加減、自分の魅力に気づいて?」

「………へ?」

「せいちゃんは、可愛いんだよ?」

「うん、ありがとう!
いっくんに言われると、嬉しい!」

「………」

「………いっくん?」
首を傾げて見上げる。

「…………ねぇ…もっと、自覚して?」
壱茶が、コツンと額をくっつけて縋るように言ってきた。

「……/////」
壱茶の香水の香りが近くなって、声も甘くて聖愛は顔を赤くする。

「ほら、また赤くなった。
目も潤んで、誘ってるようにしか見えない。
今は二人だからいいけど、他に人がいる時はダメだよ?」

いやいや…
自覚してほしいのは、いっくんの方だよ…


それから、自宅マンションに着き……

サクマと挨拶を交わし、エレベーターに乗り込むため扉の前で待っている二人。

後ろから、同じマンションの住人が現れた。

「こんばんわ!」

「あ、こんばんわ!」
仕事用のような笑顔で挨拶をする、壱茶。

「あ…こ、こんばんわ…」
壱茶と聖愛の一つ上の階の住人の女性で、聖愛が苦手な住人だ。
思わず、繋いだ手に力が入った。

「最近、暑くなってきましたね〜!」
女性が“壱茶に”微笑む。
この女性は、聖愛に対して完全に無視した態度を取る。

「そうですね」
それに対し壱茶は、あくまでも貼り付けたような笑顔をする。

聖愛は、隣で壱茶の顔を窺いながら(早く、エレベーター来ないかな…)と思っていた。

そこにエレベーターが来て、扉が開いた。

「どうぞ?」
女性が微笑み、先を促す。

すると………
「あ、せいちゃん!
僕、買い忘れた物があったんだ!
すみません、僕達はいいです」

壱茶が思い出したように言って、聖愛の手を引きマンションを出ていった。
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