いっくんのお気に入り♡
マンションの35階が、二人の住まい。

エレベーターに向かおうとすると、コンシェルジュが声をかけてきた。

「あ、おかえりなさい!」

「ただいま!」
「こんにちは」

「間に合ったみたいですね!」
聖愛に微笑んだ、コンシェルジュ。

「あ、は、はい……!」
聖愛も微笑んだ。

「ほら、せいちゃん!
早く家に行こ?
身体、冷えてるでしょ?」

そう言って、少し強引に聖愛の手を引いた壱茶。
コンシェルジュに「じゃあ…失礼します!」と微笑んだ。

「うん」
(あ…少し不機嫌になった…)

壱茶は、物腰の柔らかい紳士。
滅多に怒らないし、感情を顔に出さない。
いつも大抵微笑んでいる。

でも聖愛は知っている。
壱茶の“笑顔”には、パターンがあるのだ。

特に聖愛に向ける、心から微笑んでいる“本当の笑顔”
主に会社での“仕事用の笑顔”
先程会社での下園や、今コンシェルジュに向けたような“不快を表す笑顔”
そして“怒りを含んだ笑顔”だ。

大抵の人達は、ほとんどその違いがわからないが、妻である聖愛にはわかる。

それくらい、ずっと…壱茶だけを見てきたから。


エレベーターに乗り込む。 
「いっくん」

「ん?何?」

(ほら、私にはこんな素敵な笑顔を見せてくれる!)

何の汚れもない、澄んだ綺麗な笑顔。

「なぁに?」

「いっくんは、サクマさん(コンシェルジュの名前)嫌い?」

「え?」

「なんか、嫌そう…というか…苦手そうというか…」

「うーん… 
逆に、せいちゃんは好きなの?」

「好き…っていうと、なんか違うような…
でも、凄く良い人だよ?」

「そうなんだ」

「うん。こんな私にも優しくしてくれるの。
買い物の荷物が多い時とか、家まで持ってくれるの。
今日もね。
買い物に行こうとした時、傘を持って行くように声をかけてくれたし」

「へぇー
でも、それが仕事だし」

「確かにそうだけど…」
(そうだよね…
そうじゃなかったら、声かけないよね…(笑))

家に着き、中に入った。
「とりあえず、タオルを…」

「あー待って!
“いつもの”しなきゃ!」

「う、うん…//////」

「はい!せいちゃん、ただいま!」
そう言って、両手を広げる壱茶。

「おかえりなさい」
そう言って聖愛が抱きついて、ギューと抱き締め合う。
壱茶が聖愛の頬にキスをして、聖愛に頬を向ける。
背伸びをした聖愛が、壱茶の頬にキスをする。

そして最後に、口唇にキスを交わすのだ。
< 3 / 51 >

この作品をシェア

pagetop