いっくんのお気に入り♡
“せいちゃんの全てが欲しい”
そんなことを思うようになったのは、いつからだろう。


出逢った時?

せいちゃんに恋をしてると確信したあの時?

付き合えた時?

結婚したいと思ったあの夜?

籍を入れたあの日?


せいちゃんはいつも僕に、ある一定の距離を取って接している。

「いっくんは、私には勿体ない…!」

そう言って、謙遜ばかりしているから。

その小さな心の距離でさえ、僕にはもどかしくて苦しみを与える。

どうして……人の感情は、目に見えないのだろう。

その感情が目に見えれば、この狂おしい程のせいちゃんへの想いをわかってもらえるはずだ。

僕に愛されているとわかれば、せいちゃんももっと安心して僕に近づいて、心の距離なんてなくなるはず。

『門川くんの奥さん、可愛いね!』
『ピュアそうだよな〜』
『俺色に染められるってか…!(笑)』

今日の二次会。
酒も入っていたのもあり、ヒビトくんの同僚達が言っていた。

もちろん、冗談なのはわかっている。
でも…本気で殴ろうかと僕は拳を握りしめていた。


「――――聖愛…」
ベッドのスプリングが軋む中、せいちゃんを呼んだ。

「ん…」
せいちゃんのおでこに少し、汗がにじんでいる。
目に涙を溜め、枕を握りしめて気持ち良さによがる姿が本当に可愛くて、愛しくて堪らない。

「いい加減、自分の可愛さを自覚して?」
僕はせいちゃんを更に追い込むように抱きながら、ぶつけるように言った。

「んぁ…」

「僕はね。
聖愛みたいに、余裕で微笑んでいられない。
心が狭いんだ。
だから、聖愛が“可愛い”って言われると、嫉妬するんだ」

「いっく…」

「ねぇ…」

「んん…」

「聖愛は“僕の”でしょ?
…………お願い…僕に安心をちょうだい? 
聖愛に“ちゃんと愛されてる”ってゆう安心」

身体はいつだって繋がれるのに、心が離れていきそうなんだ……!

「僕には…聖愛だけなんだ……」

もはや、泣けてくる。
すると頬に感触がして、見下ろすとせいちゃんが切なそうに見上げていた。

「聖愛…」

「好き…大好き…いっくん」

せいちゃんは基本的に、声が小さい。
特に恥ずかしい時は、呟くように更に小さな声になる。

でも不思議なのは、僕はせいちゃんの声を100%聞き取ることができる。

「うん、ありがとう!」

せいちゃんが見上げて、両手を広げてきた。

抱き締めて?っことかな?
そう思って、抱き締めると……

「私も…いっくんだけだよ。
いっくんだけが、私自身を見てくれる。
いっくん好き…好き…大好き…好き…好き――――――――」

耳元で何度も、囁いてくれた。

それだけで、僕は“本気で死んでもいい”と思えた。
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