いつも正しい彼が言うには
 「俺、正しく浮気したんだ」朝食を食べ終わって、ご馳走様という言葉を言い終わってから言い放った。

 私は理解が追いつかず、はあ、と息を洩らすだけだった。

 彼はいつも通り卵黄かけごはんを作り、卵白を捨て、醤油を三滴垂らし、かきこんでいた。

 背筋を曲げることもなく、定規を服の中に入れられているみたいにいつも真っ直ぐだった。

 朝はニュース番組を見て、七時四十五分になったら家を出ていくルーティンだ。これが崩れると調子が悪くなると言って、私との朝との会話の話題も決まっている。今日の天気と、今日の帰り時刻見込み。

 浮気。ウワキ。ウキワ。浮気?

 あまりにも平然というので、私は咄嗟に反応もできず彼から渡された茶碗をいつも通り回収した。彼はじ、と私に目を合わせて直ぐに興味なさそうに反らした。そして行ってくる、と一言言っていつも通りの革靴でいつも通りの時刻に出ていった。呆然とする私を置いて。
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