隣の家の天才クラリネット演奏者が、甘すぎる愛を注いできます

そして、テレビの前に飾ってある一枚の写真を見せてくれる。

その写真には、凛也さんと10歳くらいの男の子が桜の木の前で笑顔で写っている。

「これは私の甥(おい)です。甥っ子は私のクラリネット演奏が大好きで、いつも私がクラリネットを演奏している動画を楽しそうに見ています。ちなみに甥っ子にクラリネット経験はありません」

凛也さんの言葉の意味が分からないまま話が進んでいく。

「甥っ子はコンテストで落ちた私の演奏ですら、『最高！』と言って喜びます。まぁ、クラリネットの経験がないからこそ言えるのだと思いますが」

「ちょっと待って下さい……！全然分からないのですが、どう言う意味ですか？」

「……つまり、一人自分の演奏が好きだと言ってくれる人がいるだけで安心出来るということです。僕はコンサートやコンテストの前は必ず甥っ子が喜んで僕の演奏を聞いてくれている顔を思い出すようにしています。もちろんストイックな方法ではないかもしれませんが」

凛也さんが写真立てをテレビの前に戻す。