水槽に沈む
「うん、二回読むことだよ。えっと、『二竜の未だ眼を点ぜざる者は、(げん)に在り。』だから、読めてる。直輝くん、完璧にできてるし、俺が教える必要なかったね」

「そんなことないよ。歩夢くんのおかげで、よく分からなかったことが理解できたから。教えてくれてありがとう。次は現代語訳だね」

 直輝が言い、一番時間がかかる現代語訳に早速取り掛かった。意見を出し合い、文章を組み立てていく。意味が分からない語句は、直輝の持つ辞典を借りて調べ、協力しながら物語を読んでいった。

 ああでもないこうでもないと頭をフル回転させながら二人して集中力を発揮し、最後まで読み終えた後にもう一度最初から目を通す。多少の間違いはあるだろうが、物語としては成り立っているように思えた。要約するとこうだ。

 張僧繇という画家は、四匹の白竜の絵を描いたが眼は描き入れていない。描き入れるとすぐに飛び去ってしまうから、と。しかし、人々はそれを信じず、張僧繇に眼を描き入れさせた。すると、すぐに稲妻が壁を突き破り、眼を描き入れた二匹の竜は飛び去った。描き入れていない二匹は残っている。

「ひとまず漢文は終わったね。ありがとう。凄く捗った」

「俺もありがとう。一人だともっと時間かかってたと思うから」

 歩夢は訳まで終わった漢文のノートを暫し眺めてから閉じ、側に置いていたバッグにしまった。読書感想文などとは違ってそれほど大物というわけではないのに、まるで大物の課題をやり遂げた後のような達成感がある。苦手な数学のプリントを終わらせた後もまた、同じ気持ちになるのではないか。

 歩夢は良い気分のままコップを掴み取りお茶を一口飲んだ。歩夢を真似るように直輝も水分を摂る。そうして、直輝が部屋にある時計で現在の時刻を確認した。
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