このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
第一章 消えそうな夢と救いの御曹司
第一章消えそうな夢と救いの御曹司
残暑厳しい八月下旬。
美汐は自宅に続く緩やかな坂道を、軽く息を弾ませ歩いていた。
日の入り近くになってもまだまだ暑く、湿度の高いムッとした空気にうんざりする。
辺りには重厚な門構えが目を引く堂々たる邸宅が建ち並び、ひそやかで上品な空気に包まれている。
美汐の小さな顔は紅潮し、肩より少し長いストレートの黒髪が歩くたび左右に揺れている。
身長は百五十八センチでそれほど高くないが、手足が長く華奢なせいか実際よりもスラリと見え、清楚で理知的な雰囲気を強調している。
「買いすぎちゃった」
最寄り駅から自宅までたった五分の距離だというのにいくつもの荷物のせいで足取りは重く、なかなかたどり着けない。
ふうっと息を吐き立ち止まり、両手いっぱいのいくつものショップバッグを見おろした。
合わせて五つのバッグの中には洋服や靴が何点も入っていて、かなり重い。
今日は大学の友人達と、星を獲得している有名レストランでおいしいコースランチを楽しんだ後、百貨店の各フロアを巡り心ゆくまで買物を堪能した。
友人達も買物に夢中で、別れる時には美汐以上の数のショップバッグを手にしていた。
中には自宅への配送を依頼している友人もいたほどだ。
「今日くらい、いいか」
美汐はバッグを持ち直すと、自宅に向かって再び歩き始めた。
今日は就活に苦戦していた友人がようやく内定通知を手にしたので、仲がいいメンバーでお祝いをしていた。
美汐を含めた三人はすでに卒業後の進路を決めていて、粘り強く活動を続ける友人に吉報が届くのを待っていたのだ。
それにしてもと、美汐は苦笑する。
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