このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
「うふふじゃないから……」

ふたりがはしゃぐ姿が目に浮かび、美汐は肩を落とした。

「ユイメディカルか」

大我はニヤリとした笑みを浮かべた。

「なに?」

面倒なことを言い出しそうだと美汐が警戒した時。

「千早不動産で働きたければ働けばいい。その代わり、ユイメディカルの御曹司と結婚しろ。これが絶対条件だ」

大我はきっぱりと告げた。

「今、なんて?」

美汐はぽかんとする。

「ユイメディカルの御曹司と結婚すれば、うちにもメリットがあるからな。だからその御曹司と結婚しろ。あとはどこで働こうが好きにしていい」
「そんな、結婚なんて突然言われても」

悪い冗談としか思えない。
美汐は内定通知が入った茶封筒を両手で握りしめた。
内定の件が大我にばれただけでなく結婚の話まで。
現実とは思えない展開をどう受け止めればいいのかわからず、頭の中が混乱している。

「だったら急がないと」

 沙織が勢いよく立ち上がった。

「大我さんなら賛成してくれると思ってたわ。早速紫乃ちゃんに連絡しなきゃ」
 
沙織は上機嫌でリビングを出て行く。
美汐はその背中を眺めながら、力なくうなだれた。

 


その日の夜、美汐はパソコンで見合い相手の結川柊について調べていた。
もちろん見合いに応じるつもりも結婚するつもりもないが、沙織だけでなく大我までもがその気になっている。
やはり家を出ようかと考えてみるが、バイトの経験すらなく世間知らずの自分には現実的ではなく、自立できる自信もない。
美汐はベッドの上に無造作に置かれたいくつものショップバッグをチラリと眺め、苦笑する。
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