このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
誰もが知るハイブランドや今流行りの雑貨店のロゴがプリントされたバッグは大小様々。
久しぶりの買物に気持ちがあがり、予定以上に楽しんでしまった。
今日なんの躊躇もなく買物ができたのも、不自由なく温室のようにぬくぬくとした今の環境にいるおかげだ。
大我から解放されたいと願いながらも、この環境に甘えて家を出る勇気のない自分が情けない。
結局、どれだけ不満を抱えていても、安穏とした日々を手放すのが怖くて大我に従順に生きてきたということだ。
無造作に並んだショップバッグは、その象徴かもしれない。
けれど、千早不動産への就職だけは、絶対に諦めたくない。
長く温めていた夢を叶えたいのはもちろん、大我の支配から解放され、自立した人生を始める一歩にしたいのだ。

「とはいっても、どうしよう」

美汐はユイメディカルのHPに視線を戻した。
ユイメディカルは医療機器や医薬品の製造・販売を行う業界最大手の医療機器メーカーで、国内外にいくつもの拠点を持ち、グループ全体で三万人の社員を擁している。

「紫乃おばさまって、すごい人だったんだ」
ユイメディカルの社長夫人である紫乃と美汐の母・沙織は小学校から大学までをともに過ごした大親友で、結婚後も頻繁に仲良く出かけている。
先月はふたりでニューヨークに飛び、一週間をかけていくつもの美術館に通っていたらしい。
おっとりしていて人の後ろをのんびり歩く沙織と、姉御肌で世話好きな紫乃。
一見正反対なふたりだが、波長が合うのか五十年以上の付き合いが続いている。
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