このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
美汐も子どもの頃から紫乃と顔を合わせる機会は多く可愛がられてきたが、大企業の社長夫人という肩書きを意識したことはなかった。
それに紫乃の息子とは、これまで一度も会っていない。
沙織は三十歳と言っていたが、その年齢の男性が大学生の美汐を相手にするだろうか。
それどころか結婚を考えている恋人がいてもおかしくない。
これだけの大企業の次期後継者なら、女性からのアプローチも相当あるはずだ。
だったらこの見合い話は単なる紫乃の思いつきで、彼自身にその気はないかもしれない。
いや、きっとそうに違いない。

「だったら」

紫乃の息子は見合いを断るはずだ。

「よかった」

ひとり納得し、美汐は表情を緩めた。

「え、でも」
 
安心したのも束の間、すぐに顔をしかめる。
この見合いの話が流れれば、大我は美汐を葉山製薬に入社させるはずだ。
それは千早不動産に入社できないということだ。

「もう、どうしよう」

どこにも出口を見つけられず、どうしようもない。
千早不動産からの内定を知り、大我はこれまで以上に強硬に美汐を葉山製薬に入社させようとするはずで、自ら千早不動産に入社辞退の連絡を入れることもあり得る。
そしてタイミングを見計らい、会社の将来に都合がいい見合い相手を連れてくる。
美汐はやりきれない思いで椅子の背に身体を預けた。
ベッドに並ぶショップバッグが再び目に入る。
その中のひとつに入っているのは、切迫早産で入院している若菜のためにと兄の拓斗から頼まれていた薄手のカーディガンだ。
拓斗は生まれた瞬間から後継者としての期待と重圧を背負わされ、もちろん今は葉山製薬で営業として働いている。
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