このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
与えられた運命にまっすぐ向き合う強さと柔軟さを備えた拓斗は、美汐の自慢の兄だ。
十歳年上の拓斗は、大我から籠の中の鳥のように窮屈に育てられる美汐を気にかけ見守ってくれていたが、彼の愛情は今、美汐に代わって妻である若菜とこれから生まれてくる子どもに注がれている。
若菜の出産予定日が近づいた今では宿泊を伴う出張を極力控え、ほぼ毎日病院に顔を出しているそうだ。 
医師会の重鎮で代々続く総合病院の院長を父に持つ若菜と拓斗の縁談は、大我にとっては願ってもない話だったらしく、見合いから結婚までわずか三カ月という早さだった。
それから二年が経ち、ふたりはいわゆる政略結婚で結ばれた夫婦とは思えないほど仲睦まじく、幸せな日々を送っている。
ふたりの家を訪ねるたび拓斗の若菜への溺愛ぶりを見せつけられ、恋愛経験ゼロの身には刺激が強すぎて美汐の方が照れてしまうほどだ。
幸せな政略結婚もある。そして、見合いもひとつの縁。
ふと頭に浮かんだ思いに、美汐は動きを止めた。

「いいかも」
 
自分と紫乃の息子との見合いにそれが当てはまるかどうか、わからない。
けれど少なくとも大我は美汐が紫乃の息子と結婚すれば、葉山製薬に入社しなくてもいいと言っていた。  
だったら千早不動産に就職するために、ひとまず見合いをするのもありかもしれない。
その先に拓斗たちのような幸せが確実に控えているわけではないことも、わかっている。
もちろん紫乃の息子から見合いを断られる可能性は高く、自分の夢を実現させるためだけに見合いに臨もうとすることに心苦しさも感じるが、今は他に方法が見つからない。
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