このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
美汐は覚悟を決め、パソコンの画面に再び向き合いユイメディカルのHPをじっくりと確認していった。


美汐が見合いをすると決めてから二週間後の週末。いよいよその日を迎えた。
場所は結川家がよく訪れるという料亭で、美汐は沙織とふたりで赴いた。
大我は昨日から仕事で九州の研究所に行っていて来ていない。
なによりも仕事を優先する大我の日常を考えれば、それは想定内のこと。
大我がいない方が余計な緊張をしなくていいので好都合だ。
緩やかな勾配が続く高級住宅地の中で暖簾を掲げるその料亭は、昔ながらの日本家屋を改装した趣のある建物だ。
石塀がぐるりと囲む広い敷地の中に入るとそこはまるで別世界のようで、丁寧に手入れされた緑豊かな庭が広がっていた。
自分たち以外にも客はいるはずなのに、澄んだ空気に支配された静かな空間は非日常的で、ここに来るまで落ち着かずにいた気持ちが、わずかに鎮まったような気がした。

「結川様は、少し前に来られてお待ちです」
 
店の奥にある和室に案内され、美汐は沙織に続いて部屋の中に足を踏み入れた。
二十畳ほどの広い室内の真ん中に艶やかな一枚板の立派な座卓があり、そこに紫乃が座っていた。
直後紫乃の隣に座る男性が目に入り、美汐は動きを止めた。
不意に顔を上げた男性と視線が絡み合い、心臓がトクリと音をたてた。
ダークブラウンの清潔感溢れる短めの髪はクセひとつなくサラリとしていて、切れ長二重まぶたの瞳からは意志の強さが滲み出ている。
すっきりとした顎のラインと形のいい薄い唇。
モデルと言われても納得の端整な容姿に目が奪われる。

< 15 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop