このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
「まあ、美汐ちゃん久しぶりね。半年ぶりくらいかしら。相変わらず綺麗ねー」
 
紫乃のはしゃぐ声に、美汐はハッと我に返る。

「いえ、そんな。あの、ご無沙汰しています」

美汐は慌てて頭を下げると、すでに席に着いている沙織の隣にぎこちない動きで腰を下ろした。
向かいに座る男性が気になり視線が上げられず、意味なく座卓の木目を見つめてしまう。
女子校育ちで恋愛経験ゼロ。美汐はそんな自分の情けなさを自覚しがっかりする。

「この間大学に入学したと思っていたのに、年が明けたらもう卒業なのよね。本当にあっという間ね」

紫乃はしみじみ呟くと、沙織と顔を合わせて笑い合う。

「本当にそうなの。この間成人式で振袖を着せたばかりなのに、次は卒業式の袴の用意だもの。楽しくて仕方がないわ」

かわいらしく肩を竦める沙織に、紫乃は目を細めた。

「袴か……懐かしいわね。美汐ちゃんは美人だから振袖もよかったけど袴も似合いそうね。あ、今着てるそのワンピースも素敵よ。ね、柊もそう思うでしょう?」
「えっ」
 
美汐は小さく反応し、視線を上げた。

「そうだわ。まずは紹介しておくわね」
 
紫乃は隣に座る男性の背に手を添えると、美汐ににっこり笑って見せた。

「長男の柊よ。結構男前でしょう?」
「は、はい」
 
当然そうだろうと思っていたが、やはり紫乃の隣の男性は、見合い相手の柊だった。
すると柊はふっと口元を緩め、美汐に軽く頭を下げる。

「結川柊です。母がいつもお世話になっております」

少し低めの落ち着いた声にドキリとし、美汐は慌てて姿勢を正した。

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