このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
「初めまして、葉山美汐です。こちらこそ、紫乃おばさまにはいつもお世話になっています」

どうにか笑顔で答えるものの、整い過ぎた顔でまっすぐ見つめられ、心臓がばくばく音を立てている。

「沙織に似て美人でしょう? こんな娘がほしかったって昔からずっと思ってるのよ。うちは息子ふたりだから愛想がなくてつまらなくて。沙織が羨ましいわ」
 
大袈裟に話す紫乃に、美汐は顔が熱くなるのを感じる。
紫乃は顔を合わせるといつも〝かわいい〟や〝綺麗になった〟などと言ってくれるが、それは身内びいきのようなもの。
ここで同じ調子で言われると、居心地が悪くてたまらない。

「ふふっ。紫乃ちゃん、いつもそればっかりね。でもありがとう。美汐は昔からかわいくて、私の自慢の娘なの」
「母さん」

親バカを隠そうとしない沙織に、美汐は小さく頭を横に振る。
自分がそこまでの容姿ではないことは、ちゃんとわかっている。

「出かけたらよく声をかけられるのよ。なんていうのかしら。スカウト? しょっちゅう名刺を押しつけられて困ってるの。あまりにもしつこくて大我さんに来てもらったこともあったわ」
「母さん、今それは関係ないから」
 
美汐は調子よく話を続ける沙織に釘を刺す。
あまりの恥ずかしさに柊の反応を見ることもできない。
確かに何度か街中でスカウトをされたことはあるが、たまたまそこにいたのが美汐だっただけのこと。
ノルマかなにかがあって仕方なく声をかけた程度のはずだ。

「そういえば、美汐ちゃんの振袖姿もすごく綺麗だったのよ。家に写真があるから、後で柊に見せてあげるわね」
 
< 17 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop