このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
場を盛り上げようとしてか、紫乃が沙織の話に合わせて口を開く。

「あら、写真ならスマホにたくさんあるわよ。柊君、見る?」
 
沙織は傍らのバッグからいそいそとスマホを取り出すと、紫乃と柊に画面を向ける。

「もう、母さんいい加減に――」 
「前撮り用とお式用のふたつの振袖を仕立てたの。金糸が華やかでしょう? 半襟の模様も艶やかで美汐ちゃんにぴったりだったの」

 沙織は嬉々とした様子で振袖姿の美汐の写真を紫乃と柊に見せている。

「美汐ちゃんは紺色の方が好きって言ってたの。確かに落ち着いていていいけど、私は赤い方がお気に入り。だから結局両方仕立てることにしたの」
「母さん、だから、もういいから」
 
誇らしげに話す沙織に呆れ、美汐が口を挟む。
最後までひとつに絞りきれず、だったら両方仕立ててもらえという大我のひと言で両方仕立てたのだが、紫乃はともかく柊に他人の振袖姿など興味はないはずだ。
申し訳なくてたまらず、美汐は沙織のスマホに手を伸ばした。
すると。

「俺も紺色の方が似合ってると思いますよ」
 
柊が美汐よりも一瞬早くスマホを受け取り、画面を見ながら呟いた。
美汐は伸ばしていた手を慌てて引っ込めた。

「もちろん赤も似合ってますけどね」
 
柊は軽い口調で言葉を続け、わずかに口角を上げた。

「振袖をいくつも用意してもらえるって、よほどご両親にかわいがられてるんだな」
「そう、ですね」
 
美汐はわずかに口ごもる。
柊の口ぶりは柔らかいが、その言葉に棘があるように感じるのは気のせいだろうか。
緊張を隠しチラリと視線を向ければ、柊の目は笑っていない。
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