このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
美汐は「そうか」と納得する。
柊ははしゃぐ沙織と紫乃に呆れているだけでなく、美汐にもがっかりしているのだ。
八歳も年下の大学生など子どもにしか見えないのだろう。
おまけに見た目も年齢よりも若く見られることが多く、メイクも苦手で今も肌を整えて薄いピンクのルージュと透明のマスカラでまつげを上げているだけ。
見るからに女性にもてそうな容姿で大人の色気が漂う柊にしてみれば、女性として認識できないのだろう。
相手にされないことは覚悟していたが、いざそれが現実になると気が滅入る。
このままでは見合いはうまくいかず、大我の思惑通り葉山製薬に入社させられるのだ。
美汐は動揺を鎮めようと、今日のために沙織が用意してくれた淡いオレンジのワンピースを、膝の上で握りしめた。
諦めたくない。
そう心の中で呟いた時。

「お料理をお持ちいたしました」
 
部屋の外から仲居の声が聞こえてきた。

「あら、急がないと。お料理がくる前にここを出るつもりだったのよ。沙織、行くわよ」
 
紫乃はそれまでの楽しげな表情を素早く消し、立ち上がった。

「あら、ゆっくりしすぎちゃったわね」

 
沙織は柊の手元に置かれていたスマホを手に取り、紫乃に続いて腰を上げた。

「母さん?」
 
美汐は沙織を見上げ、眉を寄せた。

「ふたりでどうしたの」
「今から紫乃ちゃんとミュージカルを観に行くのよ。紫乃ちゃんのおかげでいいお席を用意してもらえたから楽しみなの」
 
沙織はフレアスカートのしわを伸ばしながら声を弾ませる。

「ミュージカル? そんなこと言ってなかったよね」
 
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