このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
贅沢なランチとこのショップバッグの数。散財した自覚はある。
ようやく全員の進路が決まって、気が大きくなっていたのかもしれない。
とはいえ顔を合わせた友人たちは皆、いわゆる良家の子女。
高級ランチや気前のいい買物は日常茶飯事で、親から与えられたカードを躊躇なく使うことにも慣れている。
日本を代表する製薬会社『葉山製薬』の社長令嬢の美汐も、ドレスコードに配慮が必要な店での食事に臆することはなく、値札を気にしない買物にも慣れている。
そんな平穏な毎日を与えてくれる両親には感謝ばかりだ。

「それはわかってるけど」

坂道を上りきった美汐は、目の前に現れた大きな自宅を見上げ肩を落とした。
7LLDKの立派な建物は、父親の大我になにもかもを決められてきた美汐にとって逃げられない籠のようなもの。
一日でも早くここから出て大我の思惑に左右されない、そして自分の気持ちを優先できる人生を手に入れたい。
そのための準備に長い時間をかけ慎重に進めてきたのだ、それを無駄にしてここで逃げ出すわけにはいかない。

「そろそろ父さんに言わなきゃ」

美汐は手にしている荷物をチラリと見る。
冷静に考えれば、今は友人たちとの食事や買物に浮かれている場合ではなかった。
美汐自身も企業からの内定を得て卒業後の進路を決めているとはいえ、それを実行するには越えなければならない高い壁が控えている。
父親という名の、難攻不落の高い壁だ。
今日こそ内定のことを打ち明けよう。
話せばわかってくれるような甘い相手ではないが、ここで踏ん張らない限り、望む未来は手に入らない。
< 2 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop