このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
沙織の突拍子もない行動には慣れているつもりでいたが、紫乃との相乗効果でパワーアップした彼女にはお手上げだ。

「では、ごゆっくりお召し上がり下さい」
 
料理を並べ終えた仲居が部屋を出て行く。
障子が閉められた途端柊とふたりきりだと自覚し、そわそわする。
けれどそれ以上に沙織たちの突飛な行動に動揺しているのか、ここに来た時よりも気持ちは幾分落ち着いている。
その意味では沙織たちに感謝してもいいかもしれない。
美汐は柊の向かいに腰を下ろした。
多少落ち着いたとはいえ、間近に柊の視線を感じるとやはり緊張する。

「あの、母たちのことは知っていたんですか?」
「いや。うちがスポンサーのミュージカルを観に行くとは聞いていたが、それが今日だとは知らなかった」
「そうですか」 
 
だとすれば、沙織も紫乃もあえてそれを伏せて、美汐と柊をここに連れ出したのだ。

「確信犯ですね」
 
それは間違いない。美汐は並べられた料理を見ながら眉を寄せる。

「そうだな。もともと俺たちの料理しか頼んでなかったようだし」
 
柊はクスリと笑う。料理は美汐と柊のふたり分だけで、沙織たちの料理は用意されていなかった。

「仕組まれたな。まあ、うちの母親ならやりかねない」
「うちも同じです。このお見合いにも乗り気なので、母は楽しんでいたと思います」
 
必ずこの見合いを成功させたいとふたりで策を練っていたのだろう。
気持ちはわかるが、せめて食事くらいは同席してほしかった。
その後「あとはお若いふたりで」という流れで付き添いが場を離れるのが見合いのテンプレートだ。

「ミュージカルか」
 
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