このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
「やっぱり衣と油の温度がポイントなんでしょうね」
 
美汐は見るからにからりと揚がっている天ぷらをまじまじと見る。

「それにこの金目鯛の煮付けもおいしそうですね。煮崩れしてしまうこともあるので、これも修行中です」
 
甘辛さのバランスも難しく、いつも慎重に調味料を加えている。

「母はなんでもおいしいって言ってくれるんですけど、身内に言われても自信にはつながらないですよね」
 
艶やかな照りがおいしそうな金目鯛に、美汐は目が釘付けだ。

「どれもおいしそう。やっぱり素材がいいんでしょうか……あの?」
 
柊から視線を向けられていることに気付き、美汐は慌てた。

「ペラペラとすみません」
 
勝手にひとり盛り上がってしまった。
柊が見合いに乗り気でないと察して気が楽になったせいだ。
こうしてふたりきりで顔を合わせるのも今日が最初で最後。
それに気付いたことも柊と気安く話せるようになった理由のひとつ。
とはいえ柊は少しでも早く見合いを終わらせたいはずだ。
無駄話ばかりで申し訳ない。

「あの……結川さん?」

柊はなにか言いたげに美汐を見つめている。

「いや。料理ができるんだな」
 
意表を突かれたとばかりに切り出す柊に、美汐は苦笑する。

「できると胸を張れるかどうかはわかりませんが、好きなんです。子どもの頃に父に無理矢理料理教室に放り込まれた時は泣きましたけど、今は感謝してます」
 
その理由が葉山製薬の未来に役立つはずだというぶれない理由だったことはさておき、家事一般難なくできるように育ててくれた大我には、感謝している。

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