このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
業界最大手というだけあって手掛ける分野はあまりにも広く、会社の輪郭程度のことしか掴めなかったが、調べれば調べるほど興味が湧き、見合いのためということも忘れて夢中になった。

「社長……結川さんのお父様が『すべての検査で患者さんの苦痛をゼロにしたい』とインタビューでおっしゃっていた映像も見ました」
 
座卓越しに身体を乗り出し、美汐は熱心に話し続ける。
知らない世界を知るという作業がこれほど楽しいとは思わず、ユイメディカルについて毎日時間を見つけては調べていた。
それは大学に進学した当初、住環境という学びに初めて触れ感動した時と同じ感覚で、とにかくワクワクした。
今も柊が口にする言葉ひとつひとつに好奇心が芽生え、疑問をぶつけるばかりで食事もなかなか進まないほどだ。

「この間情報番組の取材を受けた時の映像だな。俺にも会社だけじゃなくその信念も引き継げっていうのが父の口癖。もちろん俺もそのつもりだ」

美汐の熱心な様子に気おされながらも、柊は丁寧に答える。

「お父様は医療器具を通じて患者さんが病気に立ち向かう後押しがしたいともおっしゃっていて感動しました。医療機器メーカーという分野に今まで触れる機会がなかったんですけど、すごくいいお仕事ですね」
「ありがとう。だけど、かなり熱心に調べてくれたんだな」
 
柊は感心するように呟いた。
美汐は食事を始めてしばらく経った頃から柊の仕事内容や今後の展望、そして後継者としての覚悟など、かなり突っ込んだ質問を続けているが、柊は嫌な顔を見せずそのひとつひとつに丁寧に答えてくれる。

「この間受けたテレビの取材よりも、熱心な記者だな」

< 26 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop