このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
続く美汐の質問に、柊はくっくと笑う。

「すみません、つい、調子にのりました」
 
柊の優しさに甘えてしまったと、美汐は身体を小さくし反省する。

「最初は結川さんとの会話の糸口を見つけたくて調べ始めたんです。でもすぐにユイメディカルに興味が出てきて、つい深追いしちゃって」
 
美汐は照れくさそうに肩を竦めた。

「母から聞きましたが、結川さんは今は営業をされているんですよね。大変ですか?」
 
柊は一瞬考え込んだ後、ゆっくり頷いた。

「もちろん大変だけど、営業にはオールマイティーな知識が必要だしうちで開発した商品には自信があるからやりがいはある。正直このまま営業を続けたいと思ってる」
 
柊の力強い声に彼の本気を感じ、美汐はなるほどと思う。
営業は会社の顔とも言える大切な仕事だ。柊はそれを自覚し誇りを持っているのだろう。

「身体に弱点を抱える人の役に立つ仕事ができたらと思って続けてきたが、年明けに営業から別の部署への異動が決まってるんだ」
 
今の仕事に未練があるのか淡々と話す柊の表情は固い。

「新しいお仕事ですね。頑張って下さい」
 
熱心且つ真摯に仕事に向き合う柊ならどんな仕事でも結果を出せるはず。
そう言葉を続けたいものの、自分はバイト経験もない大学生。説得力のなさを自覚して、言葉を飲み込んだ。

「そういえば、来年大学を卒業するんだよね」
 
柊は食事を終え、箸を置いた。

「はい。私も春から新しい環境に移ります。結川さんのように仕事にまっすぐ向き合って誰かの役に立てるように頑張りたいです」

〝結川さんのように〟 

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