このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
「打算って、今言っていた、俺と結婚すれば千早不動産に入社できるという話?」
「それは、あの……はい。そうです」
 
柊は口ごもる美汐を見つめ、しばらく考え込んだ後。

「詳しく教えてくれないか」
 
意味ありげに笑い、首をかしげた。

 

美汐は見合いをすると決めた理由を、柊に打ち明けた。
千早不動産から内定が出ていることが大我にばれてしまい、猛反対されたこと。
もしも千早不動産に入社したければ、ユイメディカルの次期後継者である柊と結婚し、葉山製薬の役に立つこと。
そして沙織からは、この見合いを全力で勧められているということ。
順を追って説明する美汐の話に静かに耳を傾けていた柊は、美汐が落ち着くのを待って口を開いた。

「そうか。母親ふたりは君のお父さんに便乗して俺たちを結婚させようとしてるみたいだな。俺の母は沙織さんと親戚になれると今からはしゃいでるくらいだし」
「私の母も似たような感じです。といっても、うちはいつも夢見心地でふわふわしてるので平常運転といえばそうなんですけど」
 
大人の対応というのはこういうことなのだろう。
美汐の話を聞いてもとくに様子が変わらない柊に、美汐は胸をなでおろす。

「でも、結川さんとの結婚はあり得ないとちゃんと納得してもらうので、安心して下さい」
「あり得ない? どうして?」
「どうして……って」
 
そんな当たり前のことを、いまさら持ち出す意味がわからない。

「結川さんに私はつり合わないですし。なんといってもユイメディカルの次期社長ですし」
 
首を傾げ答えると、柊はふっと口元を緩めた。

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