このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
「そんなことないだろう。君はもう少し自分に自信を持っていいと思うよ」
「でも、それは」
 
柊はきっと、美汐が葉山製薬の社長令嬢だからと暗に伝えているのだ。
確かに生まれだけを考えれば柊の隣に立てるかもしれないが、それは自信につながる要素ではなく、単なる背景だ。
自分自身の努力で得たわけではないものを自信に置き換えるのは、滑稽すぎる。

「千早不動産に採用されるほどの努力ができるんだ。それだけでも自分を認めてあげるべきだし、相手が誰であれつり合わないと考える必要はないと思う」
 
美汐は俯いていた顔を上げる。
社長令嬢としてではなく、美汐自身をフラットに見てくれる柊の言葉が胸に響く。

「だからというわけじゃないが」
 
柊の声音がわずかに変化する。

「結川さん?」
 
切れ長の目に決意のようななにかが宿るのに気付き、美汐が小さく息を止めた時。

「俺と結婚してほしい」
 
柊は迷いのない声で、そう言った。
背筋を伸ばしすっと顎を引いた精悍な面差しに、美汐の鼓動がトクリと跳ねる。

「結婚……ど、どういう意味でしょうか?」
「言葉通りの意味だ。俺との結婚を考えてみないか?」
 
柊はあっさり答えた。そのあまりにも落ち着き払った様子に、美汐はさらに混乱する。

「まさか父が出した条件が……理由ですか?」
 
柊が結婚しようと言い出す理由など、それしか思いつかない。

「だったら大丈夫です。もちろんそう言っていただけるのはうれしいんですけど、私のために、結川さんに迷惑はかけられません」
 
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