このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
ここに来るまでは柊と結婚して自分の夢を叶えようと考えていたが、多少でも彼自身を知った今はもう、美汐の夢を応援しようとしてくれるその優しさだけで十分だ。

「私の事情に結川さんを巻き込むわけにはいきません。でも、ありがとうございます」
「いや、俺も結婚を考える理由があるんだ」
「理由?」

柊が小さく頷く。

「俺にとって、今は後継者として仕事に集中したい大切な時期だが、結婚を期待する声が多くて困ってるんだ。三十を過ぎてからは見合いの話が増えて、角を立てずに断る理由を考えるのが面倒で、海外赴任を考えることもある」

うんざりした顔で話す柊を前に、美汐は思い出した。

「兄も結婚するまでは、そうでした」
 
若菜との結婚が決まるまで、大我の元にはいくつもの縁談が持ち込まれていたと聞いている。
拓斗は大我にすべて委ねていたようだが、結婚を期待されるプレッシャーはゼロではなかったはずだ。
柊も今、当時の拓斗と同じ状況なのだろう。

「俺は今まで恋愛よりも仕事を優先してきたが、それは結婚しても変わらないと思う。俺が結婚相手に求めるのは、それを理解してくれること。仕事に集中する俺を認めてほしい。それだけだ。だからといって傷つけるようなことはしないし大切にする。もちろん裏切るつもりはない」
 
美汐の目をまっすぐ見つめ、柊は表情を引き締めた。

「だから俺と結婚しないか? 俺が仕事を優先するように、君もお父さんの干渉から離れて千早不動産で仕事に専念すればいい」
「そう言われても、私は」

唐突すぎる提案に頭の中が混乱している。
まさか柊から結婚を申し込まれるとは、想像もしていなかった。
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