このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
思っていた以上に真摯で魅力的な柊に、惹かれていたようだ。

「打算的だというなら、お互い様だ」
 

柊は座卓越しに身を乗り出すようにして、美汐を見つめた。

「打算や下心なら、俺にもある。仕事を優先させてくれる相手と結婚したいというのがそれだ。だから気にしなくていい」
「はい」
 
柊の強い声音に気おされて、美汐はつい頷いた。

「この年になれば、誰でも多少の打算や下心は持っているはずだ。君のお父さんのようにそれを隠さず堂々と口にするのは珍しいと思うが」
 
柊はそう言って小さな笑い声をあげた。

「いや、悪い。大企業の社長としてすがすがしいほどの策士というだけで、非難するつもりはない。会社の存在意義を自覚していて、守ろうと必死なだけだ。その気持ちなら俺にもわかる」
 
迷いのない柊の言葉に、美汐の胸がほんのり温かくなる。
大我のその思いなら、美汐もわかっているのだ。
患者の健康や人生を支えていくため、なにがあっても会社を守り続けなければならない。
その使命を全うするために、大我は美汐たちの家族であるよりも社長としての役割を果たすことを最優先にして生きている。
ただ柊の言葉を借りれば、それこそすがすがしいほどの自己中心的なやり方を押し通し、家族の尊厳など無視しながらだが。

「俺が今仕事に専念したいのも、君のお父さんと同じだ。いずれ父の後を継ぐ時に混乱が生じて業務を停滞させたり顧客に迷惑をかけたりしたくない。そうならないために今から足場を固めておきたい」
 
柊の仕事への情熱に触れ、美汐は心の中が大きく揺れるのを感じた。
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