このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
美汐がこの申し出を断ることなどあり得ないと、信じているのだ。

「俺と結婚してくれないか?」
 
重ねてそう言いながら、柊はそっと首を傾げた。

「君が夢を叶える後押しをさせてほしい」
「夢……」

美汐は拓斗に連れて行ってもらったショッピングモールで、親子連れの幸せそうな笑顔がそこら中で弾けているのを、言葉なく見つめていた子どもの頃の自分を思い出した。

「せっかく掴んだチャンスなら、諦めてほしくないな」
「私だって諦めたくないです」
 
美汐は思わず声をあげた。たとえ大我に猛反対されたとしても、諦めたくない。

「だったら決まりだ。お互いに打算と下心を抱えた結婚だが、仲良くやっていこう」
 
柊は目を細め、満足そうにそう言った。
これで仕事に専念できると、ホッとしているのだろう。
美汐の頭に再び偽装結婚という言葉が浮かんできたが、そのおかげで自分も夢を叶えられるのだからと、ともすれば沈みそうになる気持ちを脇に押しやった。

「よろしくお願いします」

静かな室内に響いた美汐の声に、柊のホッとした吐息が重なった。

美汐と柊から結婚を決めたと伝えられた結川家と葉山家は、たちまち結婚の準備に取りかかった。
すぐに両家の顔合わせが行われ、その席で結婚式と披露宴の日程や会場、招待客のすり合わせが始まった。
招待客は両家合わせて三百人は下らず、会場の候補は限られてくる。
懇意にしているいくつかのホテルへの確認後、早々に決定するようだ。
他にも両家での話し合いが必要な事柄は多いが、両家の父親は国内で誰もがその名前を知る超大企業のトップだ。
< 41 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop