このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
母たちに至っては、結婚式に備えてふたり揃ってエステに通い始めたり、付き合いが長い京都の呉服屋に出向き黒留袖を仕立てたりと楽しそうだ。
まるで学生時代に戻ったようにはしゃぐふたりを見るたび気がとがめ、美汐は新居に運び込んだ荷物を整理しながらも、なかなか集中できずにいた。
柊が用意した4LDKのマンションは新築で、広い室内はどこも綺麗だ。

「君は気にしなくていい。罪悪感を感じるべきは、この結婚を提案した俺の方だ。仕事に専念したいからといっても、強引だった自覚はある」
 
柊は美汐の気持ちを察し、そう言って気使ってくれたが、美汐はそうは思えない。

「だったら、私にも千早不動産に入社したいという理由があります。結川さんが結婚してくれなかったら、今頃父が内定辞退をさせようと色々面倒なことをしていたと思います。私も共犯です」
 
だから柊ひとりに罪悪感を押しつけられないのだ。 

「共犯か。ふたりの秘密ってことだな」
 
柊は手にしていた段ボールをリビングの片隅に置き、楽しげに笑った。
美汐はふたりの間にあった遠慮や距離感に変わって、仲間意識のようなものが芽生えたような気がした。
夢を叶えるためとはいえ打算と下心を抱えた結婚に不安は尽きないが、柊とならお互いに協力し合いうまくやっていける自信も感じている。
たとえ偽装結婚だとしても。

同居を始めてから数日後、ふたりで役所に婚姻届を提出し、美汐は正式に柊の妻となった。


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