このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
今日こそ大我を説得しようと思っていたが、覚悟が足りなかったようだ。

「まあ、内定しているとしても辞退すればいいだけの話だ。美汐はうちの会社に入るんだからな」
「そんなっ。一方的に決めないで。私、辞退するつもりはないから」
 
千早不動産の内定を手にするために、ここ数年どれだけの努力を重ねてきたことか。
辞退するなんてあり得ない。
千早不動産は国内最大手の不動産会社で、不動産事業はもちろん全国各地でいくつものショッピングモールを運営している。
ショッピングモールに携わる仕事がしたい美汐にとって、千早不動産は憧れの企業だ。
入社を目指して頑張ってきた。
大学の定期試験で優秀な成績を残すのはもちろん、父にばれないようインターンに参加するのは体力的にも精神的にもかなりきつく、一カ月で三キロ以上も痩せた。
それでも諦めず内定を手に入れるまで力を尽くせたのは、訪れる人たちが幸せな時間を過ごせる空間を作りたいという夢があるからだ。

「父さん、私は千早不動産で働くつもりなの。内定を辞退するつもりはないか――」 
「言っておくが絶対に許さないぞ。うちの会社で働けばいいんだ。そのつもりで人事も動いてる」
 
美汐の言葉を遮り、大我はきっぱりと言い放つ。

「どうして? 今まで父さんの会社に入るなんてひと言も言ってないし、入るつもりもないの」
「お前がどう考えていようが関係ない。お前はうちの会社に入るんだ。今まで好きにさせてやったんだから、卒業後は会社の役に立て」
「そんな、勝手すぎる」
 
美汐の気持ちになどまるで関心がない大我の言葉に、美汐は唇をかみしめる。
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