このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
昔から大我は葉山製薬の発展を最優先に考え、家族のことは二の次だった。
製薬会社という人々の健康や命への責任の一端を担う企業のトップである大我の仕事への情熱には頭が下がるが、だからといってそこに自分を巻き込まないでほしい。
美汐自身にも自分の望む人生があり、叶えたい夢があるのだ。
美汐はこれまでの努力や苦労を思い返し、絶対に諦めないと覚悟を決める。

「葉山製薬はたくさんの人の健康を支える素晴らしい会社だと思うし、父さんを誇りにも思ってるけど」
 
口を開いた途端、大我からじろりと睨まれ一瞬口ごもる。

「でも、私は別の角度からアプローチして、たくさんの人に役立つ仕事がしたい。だからお願いします。千早不動産で働かせて下さい」

美汐は深々と頭を下げた。
子どもの頃から大我の意見が絶対で、小学校受験に始まり習い事や休日の過ごし方も、すべて大我に決められてきた。
今まではそれに従ってきたが、就職に関しては、自分の希望をどうしても通したい。
子どもの頃、家族で出かける機会などほとんどなく寂しい思いをしていた美汐にとって、ショッピングモールは家族の幸せの象徴であり憧れだった。
そこに携われる仕事に就いて、自分なりに人に役立つ生き方を探してみたいのだ。

「ばかばかしい。大学でも花嫁修業の延長程度のことしかしていないお前に、あれほどの大きな会社で働いていけると本気で考えているのか?」

大我は呆れたように美汐を眺めている。

「家政科なんて、どうせ料理の真似事程度のことしかしてないんだろう? 現実を考えてうちで働け」
「父さん、今は違うの」
 
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