このたび、お見合い相手の御曹司と偽装結婚いたします~かりそめ妻のはずが旦那様の溺愛が溢れて止まりません~
頑固なまでに自身の考えを押しつけようとする言葉に、美汐の身体から力が抜けていく。
美汐が通う大学は、附属校として小学校から高校までを持ち、創立百年以上を誇る名門の女子大だ。
沙織や祖母の世代にはお嬢様学校として知られていて、料理や裁縫などを学ぶ家政学部には、裕福な家庭の子女たちが花嫁修業を兼ねて入学していたと聞いている。
葉山家の女性は代々この学園に通い、卒業後は家柄に問題のない男性と見合いし嫁いでいる。
けれど少子化が進み男女間の格差に敏感な世の中へと変わりつつある今、従来のカリキュラムのままでは学園の存続は難しく、五年ほど前に大きな改革があった。
家政学部は『住生活環境学部』へと名前を変え、家政学だけでなく街づくりや生活環境についても学べるようになった。
入学前大我がその事実について無関心だとは察していたが、未だにアップデートされていないとは驚きだ。
けれど結果的にそれが幸いし、大我が当然のように決めた大学で花嫁修行という枠には収まらない知識を得ることができた。
もともと美汐は家政学に強い興味はなかったが、大我に決められるがままエスカレータ式に進学した大学で住環境という分野に出会った。
そして、夢中で学んだ。
結果的にそのことがきっかけでショッピングモールに関わる仕事に就きたいという、子どもの頃からの夢を叶えるチャンスを手にしたのだ。

「まったく。千早不動産で働きたいだと? 自分の能力を考えろ。内定だってなにかの間違いか運がよかっただけだ。入社したとしても能力不足ですぐ首になるに決まってるんだ。そんなうちの恥になるようなこと、絶対に認めないからな」
 
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