君の花火を忘れない

出会い

奇跡だとしか思えない。
私が、友達の輪に入っている。
そのグループに入れてもらったのは、ほんの少し前。
中学に入学した私は、乙音(おとね)、香織(かおり)、亜美(あみ)の3人が話しかけてくれたことがキッカケだった。
『ねぇっ、あなた、奈那(なな)ちゃんっ⁉︎』
『…そうですけど』
『あたし、乙音‼︎それでこっちが…おーい、香織、亜美〜!』
乙音が手招きすると、香織と亜美らしき人がやってきた。
『えっと、この子誰?』
『奈那ちゃんだよ。奈那ちゃん、この子誰って言った人が、亜美。で、』
『よろしくね、菜那ちゃん。私、香織っていいます』
話を聞くと、3人は小学校が同じで、幼なじみらしい。
幼なじみの中にいれてもらうなんて、奇跡でしかない。
その後、2ヶ月半が経ち、6月15日の今日。
「ねね、奈那って誕生日いつ〜?」
乙音は私を呼び捨てするようになって、距離感が縮まった気がした。
私は、yes かNoでしかほとんど答えないのに、それでも話を振ってくれる3人には感謝しかない。
「7月7日だよ」
「七夕だ‼︎」
「だから、奈那ってこと?」
私が堪えると、亜美、香織が反応してくれる。
「そうらしいよ」
「いいなー、私なんて12月27日で、クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントが一緒なんだよ〜、もう、どっちもお祝いすべき大事なイベントなのに〜‼︎」
亜美がむぅっと唇をとがらす。
2ヶ月半もこの3人といると、それぞれの性格がわかってきた。
乙音は誰にでも話を振ってくれる。
亜美は明るくてすぐに反応してくれる。
香織はお姉さんみたいな感じで、気を遣ってくれる。
みんな私には釣り合わないんじゃないってくらい、【自分】を持っている。
「あはは!それは仕方ないね。あたしが亜美の親だったら、どっちもイベントのプレゼント、一緒にするもん」
「確かにそうかもね。亜美、そう落ち込まないの〜。話変わるんだけど、今度、班で校外学習?みたいな感じのがあるらしいよ。自分たちで班を決めれるみたい」
私はそんなの何でもいいって思ってた。
3人と一緒じゃなくても。
そんな私とは違って、
「絶対一緒がいいよね‼︎ あと、男子大事‼︎ そこで恋が芽生えたり〜ウフフ」
「亜美、キモい」
乙音が冷静にツッコミをいれる。
「大丈夫だよ。亜美は妄想モードに入っちゃっただけ」
「そういえば、どうなの?香織。彼氏とは」
「ええっ⁉︎ 香織、彼氏いたの?いいな〜‼︎」
いきなり話題に入ってきた亜美に、2人は苦笑してる。
「まぁ…いい感じ。先輩だからさ、手とか繋いだんだけど、手が大きくて、頼もしかったかな」
「そーいえば、奈那って彼氏いる〜?」
乙音が香織の恋のエピソードをスルーして、私に話しかけて来た。
「いないよ」
「えー⁉︎ ウソ〜っ、奈那モテそうなのに〜?」
「全然モテないよ」
一問一答とは、このことなんじゃないのかな。
きっと、ここで乙音の方がモテそうだよとか言ってあげればいいんだけど…人見知りということもあり、未だに完全には3人に心を開けずにいる。
香織と亜美は、香織の彼氏の話で盛り上がってる。
「あたしの気のせいかもしれないんだけど、奈那ってあんまり笑ったところ、見たことないな〜」
「あっ、確かに。笑わないよね」
笑わないんじゃない。笑えないんだ。
私が軽く下唇を噛むと、
「今日の1時間目って、何だっけ?」
しっかり者の香織が1時間目を知らないはずがない。
私のために気を遣ってくれたんだ。
「数学だよ〜最悪〜」
亜美があーあって落ち込むと、
「ええっ〜⁉︎ 何言ってんの〜。数学楽しいじゃん」
乙音は楽しそうに言う。
話題がそれた。よかった。
でも、笑えないのも事実だ。何とかしなくちゃ。香織にも迷惑かけちゃうし…。
席に着くと、1番後ろの席で窓側の薄い茶色髪で、はちみつ色の瞳をした男子と目が合った。
パッチリ二重だし…!
あの瞳には何をうつすんだろうって、釘づけになった。
その男の子は、フイッと視線をそらして、窓を見つめた。
…あんなイケメン、いたっけ。
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