君の花火を忘れない

悪口

そしてむかえた放課後。
今日、部活は全校で無し。なんでかわからないけど。
私がグラウンドから出ようとすると、
「おい、雅空!一緒に俺の家でゲームしようぜ」
「ごめん、俺、サッカーの練習したいんだ」
「自主練かー、えらいな。頑張れよ!」
そう声をかけた男子と、4人の男子が私をぬかしていく。
「アイツ、ウザいよな」
声をかけた男子がそう言うと、
「わかる。『俺、お前らよりサッカーできます』アピールやべぇ」
「あと、練習しててえらいだろアピール」
「頭おかしいんじゃねぇの?何が目的なんだろな。サッカー部の顧問の先生に気に入られたいから?」
私の頭の中で、雅空の言葉がよみがえる。
『奈那っておもしろいんだな』
そう言って笑う雅空。
「嫉妬、ですか?」
気がついたら、勝手に口が動いていた。
「は?何、お前」
「雅空は!顧問の先生に気に入られたいから練習してるんじゃない!サッカーに一生懸命なだけなのに、なんでこんなこと言われなきゃいけないの⁉︎ 頭おかしいなんて言うな‼︎ なにが目的って、サッカーが上手くなりたいからに決まってる‼︎」
よかった。言いたいことを言えた…!
「なんだよ、お前。俺たちのこと知らないくせに勝手なこと言ってんじゃねえ!ただ、変わり者のアイツがウザいだけだ!お前なんかに関係ない」
最初に声をかけた男子が、怒鳴って言い、走ってどこかへ行ってしまった。
取り残された私は、昔言われた言葉がよみがえっていた。
『何やってんの?あ、先生に気に入られたいから?じゃあ、これもお願い』
頭からゴミをかぶせられたときのこと。
『お前の笑い方、人をバカにしてるような笑いでイライラする。ウザい』
それから笑えなくなってしまったこと。
楓(かえで)という女の子のせいで、私は…。ううん、そんなの気にしてる場合じゃない。
さっきのことが雅空の耳に入ったら…大変なことになる。
「どうした、奈那?」
「えっ、雅空?」
私は思わずすっとんきょうな声を上げた。
「質問返しするな」
「…ちょっと、ボーッとしてただけ。なんで雅空がここにいるの?」
「俺も、ちょっと集中できなくなって、帰ろうかなって。さっきのヤツらには、悪いことしたな。断っちゃったからさ」
私は何も言えなくなった。
聞いたことを言うべき?それとも…
「あ、もしかして俺の悪口言ってた?」
「えっ」
「いいんだ、慣れてるから」
そう言った雅空は、悲しそうに見えた。
「私でよかったらね…話、聞くよ?」
「…ありがとう。辛いとき、聞いてもらうね」
切なそうに笑う雅空の笑顔に、私まで悲しくなる。
「じゃあ、また明日」
私はその日、あの悲しそうな笑顔が忘れられなかった。
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