死神×少女+2【続編】
亜矢とリョウが一緒に玄関を出ると、偶然にも目の前に、ある人物が通りかかった。
亜矢はその人物に気付くと、明るい口調で呼び止めた。

「天真さん!」

その一瞬、リョウの呼吸が止まった。
亜矢とリョウの目の前にいたのは、天王。
人間界では『天真』と名乗っている、天界の王だ。

「……おや、今日は二人一緒なんだね」

天王は相変わらず、亜矢に対して邪気のない笑顔を向ける。
だが、リョウにとってはその笑顔が逆に怖かった。
天王と目を合わせようともせず、リョウは亜矢の後ろで視線を泳がせている。
亜矢は自分が持っていた大きな紙袋の中から、小さな袋を1つ取り出した。
そして、天王の前に差し出した。

「これ、リョウくんと一緒に作ったクッキーなんです!良かったらどうぞ」

ニッコリと笑って天王を見上げる。
天王は一瞬、笑顔を消して後方のリョウに視線を移した。
リョウは全く天王と目を合わせない。凍り付いたように動かない。
天王は亜矢に視線を戻すと、再び笑いかけた。

「ありがたく頂こう」

天王はクッキーの袋を受け取った。

「私は、前々から彼の作る菓子が好きなんだよ」

そう言って、天王はリョウの横を通り過ぎた。
すれ違う瞬間、天王はリョウに視線を向けた。
リョウはその視線に気付くが、口をギュっと結んだまま、立ち尽くしていた。
天王がその場から立ち去った後も、リョウは動こうとしない。

「リョウくん、どうしたの?行こう」

亜矢の呼びかけで、ようやくリョウは我に返った。

「天真さんも、リョウくんの作ったお菓子を絶賛してるのね」

やっぱりリョウくんはすごいなあ、と亜矢は感心する。
だが………リョウはその言葉にも答える事が出来なかった。






その頃のマンションの一室、グリアの部屋。
亜矢の部屋の右隣に住んでいる死神グリア。
グリアはベッドの上に仰向けに寝ながら、色々と考えていた。
グリアは、身近な所で起こり始めた大きな変化に気付き始めている。
亜矢は相変わらずだが、リョウの事。そして、今も影で動く天王の事。
今、亜矢とリョウを近付けるのは危険な事だ。
それなのに、亜矢は今日もリョウの部屋へと出かけている。
どちらかといえば嫉妬という意味でグリアはイライラしているのだ。
その時、突然何か軽くて小さな物がフワっとグリアの顔面に落ち、視界を遮った。
グリアが片手で顔面に落ちたそれを手に持って見る。

「………羽根?」

それは、小さな羽根が一枚。
よく見ると、薄いピンク色がかった不思議な輝きがある。
これに似た羽根を、どこかで見た事があるような……。
そう、これはまさしく、天使の………
そう思った瞬間、グリアが仰向けに寝ていた天井から、

ポンッ☆

軽い爆発音がしたかと思うと、その煙の中から何かが落ちてきた。
それは仰向けに寝ているグリアの体めがけて落下した。

ドサッ!!

「きゃあっ!!」

叫び声を上げたのはグリアではなく、グリアの上に覆い被さる形で落下した人物の方だ。
それは、見た目は中学生くらいの少女だった。
少女は倒れかかった体勢のまま、少しだけ顔を上げた。
すると、目の前にはグリアの顔があった。
もう少し動かせば、唇が触れてしまうくらいの至近距離だ。
グリアは身動き一つせず、その鋭い瞳で少女を見つめ返している。
いや、睨み返していると言った方がいいか。
少女は一気に顔を赤くして慌て出した。

「あっ…!は、離れて下さいっ!!」

逆に、グリアは冷たいほどに落ち着いている。

「あんたがどけよ」

少女がグリアに覆い被さってるので、グリアの方から離れる事は出来ないのだ。
少女は『あっ!』と口を開けると、ようやくグリアから離れてベッドから下りた。
そして自分の胸元を押さえながら、呼吸を整えている。

「ああ~~びっくりした~~……」

突然、天井から降って来た人が言う台詞ではないのだが。
グリアはこの少女を見て、ある人物と共通するものを感じて少々面倒そうに思いながら身体を起こした。

「あんた、天使だろ?勝手にオレ様の部屋に降ってくるんじゃねえよ」
「えっ!?どうして私が天使だって分かったんですか!?」

グリアは溜め息をつきたくなった。調子が狂うこの感じ、アイツに似ている。

「背中に付いてるソレはなんだ?」

少女の背中には、羽根があった。それはまさしく、天使の羽根。
少女は慌てて、背中の羽根を消した。人間界では、天使は羽根を隠すのだ。
……見られてから消したのでは、遅いのだが。

「私……レイナって言います。まだ、天使見習いなんですけど」

弱気に自分の名を名乗るレイナ。

「あの……あなたは?」
「オレ様は死神グリアだ」

グリアは立ち上がると、レイナのすぐ目の前に立った。
グリアはレイナを見て思った。やっぱりアイツに似ている、と。
ピンク色の髪、瞳。特有の不思議な雰囲気を持つ、この少女。

「え?え……あの…………?」

無言で見下ろされて、レイナは顔を赤くしながらオロオロしている。
先程の、至近距離でのグリアの顔が忘れられないのだろう。
ついには、恥ずかしくて顔をうつむかせてしまった。

「オレ様よりも、リョウに用があるんじゃねえか?」

レイナはハっとして顔を上げた。

「どうして分かったんですか!?」
「見りゃ分かるぜ。リョウの部屋は、隣の隣だ」
「えっ!?やだ、すみません……部屋を間違えました!!」

レイナは慌てて、玄関へと駆け出した。
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